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#67_Wonderful New Terrain…ここは本当に日本なのか? – 第7回KOLC大会

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5月13日、静岡県伊豆市の『筏場国有林-神さびし山の葵-』を舞台に「第7回KOLC大会」が開催され、M21Eは田邉拓也(横浜OLC)、W21Eは宮川早穂(ES関東C)が制した。

 

この日のテレイン内では、他の大会では見られない光景があった。無数のこぶや岩石群の周囲を見てはコントロールが見つからず絶望する参加者の群れ、いつも驚異的な速度で駆けるトップ選手が現在値を見失いうろうろする姿。しかしながら、「ここはどこだ!?」「全然わかんねえ」と悪態をつきつつも、誰もがこのレースを楽しんでいるようにも見受けられた。
この日の舞台は「国内屈指の高難易度を持つWonderful New Terrain」…以下に示す通り、日本には類を見ないテレインがそこにはあった。そこで開かれた大会はどのようなものだったのか、これから詳しく記していきたい。

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これがWonderful New Terrain!(M21Eの地図)


テレインとの出会い

事の起こりは、2年前の2016年3月までさかのぼる。
運営責任者の稲森剛によれば「(当時行われた)伊豆半島ロゲイニングの場にて、運営に参加していた筑波大学小林大悟さんから『伊豆半島には良いテレインになりそうな場所がいくつもある、と小泉成行さんが言っていた』という話を聞いた」「その後の強化合宿にて村越久子さんや小泉さんから伊豆半島のテレインについて詳しく聞いた」という。情報入手後、稲森は国土地理院の地図等で伊豆の地形を眺め、急斜面の地形が多い中で、緩い片斜地形が広がっていた今回のテレイン『筏場(いかだば)国有林-神さびし山の葵-』を発見した。調査責任者の伊藤樹も同じく伊豆のテレインを探していたが、2人で別々に探していたにもかかわらず、伊藤もこのテレインに辿り着いたという。この年のスイスJWOCのテレインに似ているように見えたため、2人は「伊豆にスイスがある!」と盛り上がったという。
テレインプロフィールによれば「国内屈指の高難易度テレイン」とのことだが、これは競技者にとってはもちろんそうなのだが、地図調査者にとっても同じことがいえる。しかし、これに臆することなく、NishiPROによる地図調査講習を経て、学生たちは大会運営・地図調査に乗り出した。

積雪による大会延期

本大会は当初2018年2月25日の開催が予定されていた。全国的には残雪も気にならないところであったが、この頃のテレインは積雪が多い状況であった。礫地や岩石地が多いこのテレインでは足場が見えないことによる怪我や、低体温症の危険性が高く、参加者の安全が確保できないとの判断により、大会の延期が決定された。大会8日前のことであった。大会準備を進めてきたKOLCの学生にとっては苦渋の決断であっただろうが、しかし、そこで安全面をしっかり考えて延期を決断できた勇気は称えたい。
延期先はこの5月となった。実行委員長の浜野奎によれば「もっと遅くに延期することも考えたが、そうなると11月に予定している次回『第8回KOLC大会』の実施にも影響が出てしまう。また、一昨年のKOLC復活大会(栃木県矢板市)、昨年の第6回大会(神奈川県横浜市保土ヶ谷区横浜国立大学)と続いてきた大会開催の流れを絶やしたくなかったという思いもあった」とのことである。
しかし、延期後の準備は容易ではなく、大きなところでは会場の変更が必要となった。延期前の会場予定だったゴルフクラブ(スタートまで徒歩25分程度とのこと)は5月は繁忙期のため使用できなくなり、会場はテレインから遠い位置となった。スタートまでの移動では参加者の移動負担が増えることとなったが、スタート地区までの途中まではバス輸送を行い、さらに高年齢クラスはスタート地区までさらに運営車による輸送を行うなど、可能な限りの配慮がなされた。スタート地区までの道のりは長かったが、一面に広がるわさび田や流れ落ちる滝など、豊かな景色を楽しむことができた。

Wonderful New Terrainに挑む ~筆者の体験~

国内屈指の高難易度テレインとはどのようなものか…公式サイトにはWonderful New Terrainなどと書かれているが、一体どれほどWonderfulなのか…参加者はわくわくしながらスタートの時を待った。筆者もわくわくしていた一人である。スタート時刻となり、筆者は地図をめくり「まずは△(スタートフラッグ)を探すか…」と思ったが、その時目に入ったのがこれである。

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Welcome to Wonderful New Terrain!

思わず変な笑いが出てしまった。笑うしかなかった(後々SNSを見たところ、どうやらスタートで地図見て笑ってしまったのは筆者だけではなかったようである)。
あまりに高密度な地図。地形全然わからん。これは縮尺1:7,500なんだよな…? 等々、一気に色んな思考が出てきた。序盤の3番コントロールまでは平坦で植生の良い「よくある楽しいオリエンテーリング」という印象だったが、急斜面をテープ誘導で登坂した先は完全に未知領域であった。現在地が分からず、周りの参加者の動きを参考にしようにも、彼らも明らかに迷子になっている様子であった。こんな体験をしたのは初めて伊豆大島に乗り込んだとき以来か。だが、見通しが悪くて片斜面になっている分、個人的には伊豆大島よりも難しく感じた(伊豆大島で現在地を見失ったときは「こんなに見通し良いのにわけがわからない」という本テレインとは違った感情が味わえるのだが)。そして、ようやくコツを掴んできたころにはもうフィニッシュが近づいていた。筆者には「もう終わってしまうのか…もっとこのテレイン味わっていたいのに…」という思いがよぎったが、オリエンテーリング中にこのような気持ちになったことに大変驚いた。

Wonderful New Terrainを制する者

事前情報に違わぬ高難易度テレインに、レースの結果も大荒れとなった。コース設定者の伊藤樹は、難易度が高い勝負レッグとして、M21E、W21E共に6→7を挙げてくれたが、このレッグは尾崎弘和、小泉成行といった有力選手が10分近いミスタイムを計上するなど、多くの選手を微地形に沈めた。

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多くの選手を沈めたM21Eの6→7

その中で、このレッグで1位をとった田邉拓也(横浜OLC)がM21Eを制した。田邉は「今日は慎重に行くイメージで臨んだ。(先月行われた)茶の里いるま大会で人について行ってミスするシチュエーションがあったので、『何となく』ではなくて、自分で根拠をもってチェックポイント、アタックポイントを設定して走った。フェンスの角など、絶対に分かる肝要なチェックポイントをなるべく引っ張りナビゲーションをするようにもした」と話していた。勝負を決めた6→7についても、7番コントロール手前にある、ヤブの発達した細い尾根が目立つと判断し、何とかそこまでたどり着くようにプランを考えたという。その「ヤブの発達した細い尾根」の手前には不明瞭小径が存在していたが、田邉にはそれが「山塊を巻いている」ように捉えられ、この小径なら辿れるという直感もあったという。その直感は、学生時代に青葉山の山ランによって養われたものだと話していた。かつて東北大の主将として部を引っ張り、数多の回数青葉山でトレーニングを積んだ彼だからこそ、自信をもって辿れたルートかもしれない。この後、田邉は結城克哉、粂潤哉らと集団になってスピードが上がり、適切なチェックポイントの設定に徹しきれなかったところもあったが、終盤にまた一人旅になってからは「自分のレース」をするよう心掛けたそうだ。来る全日本大会で田邉はM21Aに出場するが「(全日本では)自分の力でしっかりアタックポイントを決めて走る理想のレースをしてM21A優勝したい」と語っていた。

一方、W21Eは宮川早穂(ES関東C)が制した。本大会をとても楽しみにしていたという宮川は「海外のようなテレインで、驚きと感動があった。足場が悪くスピードが出なかったが、分かるところ・走れるところを選んだルートを取ったのと、アタックを丁寧にしたのが良かったと思っている。この大会を開いてくださった運営者のみなさんに感謝しかありません。とても楽しかった」と話してくれた。また「大学時代にオフィシャルとして支えてくださった田邉さんと優勝できてうれしい」とも話していた。

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M21E 田邉のウィナーズルート

 

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W21E 宮川のウィナーズルート

 

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M21E入賞者

 

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W21E入賞者


こだわりの運営

多くの参加者がWonderful New Terrainを楽しんだ本大会。楽しく走れた背景には、伊藤のコース設定もあるようだ。伊藤はコース設定に際し
・植生が綺麗なところもあれば悪いところもあるという特徴的な植生のテレインなので、それらの移り変わりが分かりやすいコースを組んで競技者に楽しんでもらおうとした。
・礫地が多いテレインだが、ずっと礫地だとストレスになるので、道を走れるところも織り交ぜてストレス無いようなコースにした。
…と語っていた。大会1週間前には、テレイン北部に伐採によりCハッチ地帯が発生し、そのエリアにおいていた4~5個のコントロールを急遽他に移すという対応も行っていたそうだ。

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このCハッチは大会1週間前に突如出現したものらしい

難しいテレインだからこそ、安全面についても配慮されていた。まず、現在値が分からなくなったときの対応として「テレインは南が高く、北が低くなっております。テレインの北端には車が通行できる幅(3m程度)の道路がありますので、 現在地が不明になった場合は北に向かってください」とプログラムに明示されていた。さらには、テレイン南端には長い範囲にスズランテープを設置し、マップアウトを防いでいた。600m以上の長距離にスズランテープを設置したのは相当手間がかかったと思われる。

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テレイン南端のスズランテープ設置(大会プログラムより)


地図調査についても話を聞いてみた。伊藤は「地図調査は難しかったが楽しかった。表現するのが難しい地形が多数あったが、それらをちゃんと表現できた時には達成感があった」と話していた。なんでも、この達成感のことを彼らは『調査-ズハイ』と呼んでいたそうだ。
そんなこだわりの調査が詰まった地図も、当然ながらこだわりの逸品となった。礫地の多いテレインだが、礫地の黒点が等高線とかぶらないよう、礫地の表記には注意を払ったという。また、記号の大きさについても、印刷時のインクのにじみを考慮した大きさ設定にした、という話まで飛び出し、こだわりの深さには大変驚いた。また、作図責任者の上島浩平によれば「地図のレイアウトも海外地図を意識した構成にした」とのことであった。上島は「この大会は適所適材な運営だった。KOLCは特化した才能を持つ人が多く、それがゆえにこだわりある大会に仕上がった」と振り返っていた。


調査の難しいテレイン、大会の延期等、相当大変な条件が揃っていたにも関わらず、無事に大会は終了した。この大会が成功だったかと言われれば、それは参加者の笑顔の多さが何よりの証であろう。KOLCのこだわりの大会運営、事前情報に違わぬWonderful New Terrainを満喫する一日となった。

この大会は、間違いなく、後々まで語り継がれるであろう。

 

 

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▼第7回KOLC大会
http://kolc.main.jp/7thcomp/index.html

▼成績速報(Lap Center)
https://mulka2.com/lapcenter/index.jsp?event=4578

謝辞:本記事の表紙の写真は運営者に提供いただきました

 

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