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2017年1月よりスタートしたオリエンテーリング関連のニュースサイトです。関東を拠点に、手の届く範囲でですが大会記事などをお届けしていきたいと思います。

#70_駆けろ!大草原地帯 - 第40回北大大会

5月27日、北海道千歳市の『輪廻平原』(りんねへいげん)で「第40回北海道大学オリエンテーリング大会」(主催:北海道大学オリエンテーリング部(以下:北大OLC))が開催された。
コース1(M21A相当)は長岡凌生(甥大好きbot)、コース2(W21A相当)は酒井佳子が制した。

 

舞台は輪廻平原(旧名:美々牧野)、通称「美々」。ここも北海道テレインの例に漏れず日本らしくないテレインであった。序盤は大きな尾根沢を中心に、ショートレッグで構成された本州でもよくあるいつも通りのレースが展開していく。全体の1/5が過ぎたあたりでレッグは南に向きを変え、小径伝いに緩斜面を駆け上がると森を抜ける。すると一気に視界が広がった。

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―――そこはまさしく「大草原地帯」であった。

 

私は今年、金沢から札幌に移住してきたが、やはり北海道の地形は魅力的だ。本州ではなかなか見つけられないであろうテレインが当たり前のように存在するのが北海道という場所である。運転中に牧場の脇を通った際に「こんなところを走ってみたいなぁ」と思ったオリエンティアは少なくないはずだ。この「美々」はその願望を叶えてくれる。まさにそんなテレインである。

  

雪に閉ざされる大地と北海道唯一の加盟校

言うまでもないが冬の北海道で雪から逃れることは容易ではない。そのため冬はオリエンテーリングに適した環境とは言い難く、当然道内での入山機会はその分失わる。よって北海道のオリエンティアは道外に別の意味で白くない山を求める。
今、北海道と本州を繋ぐ交通手段と言ったら基本は飛行機だろう。しかし航空券が安価に手に入るようになったのはここ10年の話であり、それ以前はとても学生が頻繁に利用できるものではなかった。深夜バスも津軽海峡を超えることはできないし、夜行列車はこれまた高い。大学生が使えるまともな交通手段と言えばフェリーくらいしかなかったのだ。そんな厳しい環境の中、北海道唯一の日本学連正加盟校として北大OLCは途切れることなく存続してきた。
北大OLCの歴史は古く、第2回インカレ団体戦より今年の第40回まで毎年出場している。うち男子が5回入賞しており女子も第18回(95年度)で準優勝という古豪だ。また、第1回インカレショートでは、今回クラス2優勝者の酒井(当時北大4年)が在籍しており、DE(現WE)2位であった。同年インカレクラシックでもDE2位である。なお、当時のエースは現在も主にSKI-Oで活躍しており、記録の残っている過去7年で全日本個人13戦12勝1敗と出場すればほぼ無敵といった様相である。まさに北大OLCを代表する名選手と言えるだろう。今回その往年の大エースに話を伺うことができた。

―今年で40回大会ですが、OGとしてどう感じられますか。

酒井:そうなんですよね(笑)。こんなところですごいですよね。北海道という、恵まれたとは言えない土地でここまで続けていけたのは素晴らしいことだと思います。OGとして自慢の1つですね。少し前は部員がとても減っていてどうかな、と思いましたが、最近になってまた息を吹き返してきたみたいなので今後化けてほしいなと思います。

―今回大会を開催した現役部員に一言お願いします。

酒井:今年は新人さんがかなり入ったようなので(大会時点で21人)、これまで以上にいい大会を開いていってほしいと思います。期待してます(笑)

 

他にも何人かOB/OGに話を伺ったが、やはり40回開催というのは密かな自慢の1つになっているようだ。一部のOBは「東北大学が41回と言っているがあれは20年くらい前に延期して開催した時に1回増やしてカウントしているからで、実際はウチと東大と同じ回数なんだ!」と話していた。詳しい人は調べてみてほしい。
日本にオリエンテーリングが上陸して去年で50周年を迎えたが、大学主催大会で40回という開催数は6月3日開催の東大OLK大会と並んで国内2位の回数を誇る(上のOBの話を信用すれば1位の東北大学を含む三校が同数トップということになるが)。
北海道という決して恵まれているとは言えない地で、また次々と歴史ある加盟校が消滅していった中、ここまで存続していくことができたのはどのような背景があったのだろうか。先代主将の塩平真士(北大2015年入学)に話を伺った。

 

―北海道という場所ならではの苦労があると思うのですが。

塩平:当然冬は雪が降って山に入れないことですね。その分練習する機会が減ってしまうので。遠征に交通費がとても高くなってしまうことがあると思います。またテレインが多いとは言えないので、同じようなところで何度も練習することになってしまうところですね。特に矢板のようなテレインが少ないので、今新しいテレインの候補を探しているところです。

―そんな中、40回まで大会を重ねることができた要因は。

塩平:途切れさせてはいけないという使命感が強かったんだと思います。昔は2人で調査して2人で開催した年もあったらしいので。そんな中でも欠かさず開催するという執念があるんだと思います。まあ僕も3人しかいない年目なので大変でしたが。

―40回という数字は東大と並んで国内2位の長さです。

塩平:同じ数字なのに東大とうち、どこでそんなに差がついたんでしょうね(笑)。自分の代でも厳しかったのにそれより少ない代もあった中で、よく北海道とかいうこんなところで40回も大会開けたなと思いますね。すごいと思います。

―今後、部に期待することは。

塩平:北海道という遠い地でも来ようと思える魅力的な大会を開いてほしいですね。競技的な面では近年リレーでいい成績が残せていないので入賞とかしてくれると嬉しいです。

 

やはり40回という数字は北大OLCに関わる者にとって大きいようだ。

 

牧場跡を走る ~筆者の体験~

今回、執筆するにあたって上手く伝えられる自信がなかったためヘッドカメラを用いて撮影を行った。こちらも参考に視聴してほしい。

youtu.be

 

昨年北大大会が開催された島松(別名:解脱の杜)は異形の地図といった様相だったが、今年はかなり完成された状態の旧図情報があったため参加者に去年ほどの衝撃はなかっただろう。それでも「フォレストなのにパークっぽいきもちわるい」などと漏らしそうになったが。その地図がこれである。

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フォレストでここまで黄色の強い地図は正直見たことがない

 

「これはロングの...というかフォレストの大会だったよね?」そう思わずはいられない。パークを彷彿とさせる黄みがかった茶色の範囲は異様に広く、地図の半分近くがオープンである。とにかく一面の大草原なのだ。大草原不可避という言葉(ネットスラング)があるが、これぞまさに大草原不可避である。このような平たいテレインを挙げるとしたら、第39回インカレミドル・リレー開催地「マキノ」があるが、マキノとも雰囲気が違う。おそらく日本全国探しても美々と同じ雰囲気のテレインは現時点で存在しないだろう。
また、2週間前のKOLC大会の地図を「過密」とするならば、こちらは「過疎」というのが相応しい。とにかくオープンベタ塗り以外の情報が少ない。なぜこの範囲のオープンに独立樹がこれっぽっちしかないのか。とにかく頭の中が「ナニコレ」で支配されていく感じだ。
ご覧の有様といった感じで、コントロールフラッグは何百メートル離れた先にあるのに既に見えたりしている。―「それ」が自分のコースのものである保証はないが。更に優勝設定はおおよそ6:30min/km。この速度をおよそ10kmも維持しなければならないのだ。更に更にここは北の大空港新千歳空港の真横。長距離走で疲弊した頭に容赦なく離陸していく飛行機の轟音が突き刺さる。フィニッシュにたどり着いた頃には轟音と長距離読図走ですっかり頭がやられてしまっていた。
パークでないオリエンテーリングは静かな山でやるものと思い込んでいたが、どうやら試される大地にかかればそんなものは吹いて飛んでしまうらしい。

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サバンナかなにかですかこれ

 

予てよりテレインプロフィール通りの超高速レースが見込まれていたが、実際の優勝タイムはコース1では113%。2,3,4では優勝設定比150%以上と当初の見込みから大幅にずれ込んだ。これはコースセットに問題があったかというとそのような訳ではなく、開催前2週間ほどの大幅な気温上昇で一気に植生が悪化してしまった点が原因であった。このような事態は北海道ではよくあり、GWにスーパーAであった箇所が6月頭にはC藪になっているなど、北海道のテレインで避けられない問題の1つである。今回も序盤の湿地北部は多くのエリアがオクエゾサイシンやシダが猛発達してB藪になってしまっていた。
コース2の優勝者、酒井は今回のコースについて「広いオープンをイメージしていたが、前半の林での回しが想像より難しくこの部分で無駄に時間を使ってしまった。地図と現地の植生のギャップは想定していて、その想定を超えるほどではなかったのでそちらは気にはならなかった」と前半の林が速度低下の原因と話していた。また、「オープンでは遠くまで見えるので、方向を決めたらとにかく真っ直ぐ走り続けるイメージで回った」とのことで、やはりオープンで数百メートル級の直進を素早く正確に当てられたかどうかが決め手であった。優勝者2人のルートも、オープン地帯においてはほとんど直線といった感じだ。特に独立樹のコントロールは複数あるが、それぞれ100m以上離れているため1つ隣の独立樹に向かってしまうだけでもかなりのロスとなってしまっただろう。
また、地図上ではラフオープンになっている箇所でも下草が発達しており、Bハッチ気味のラフオープンといった具合であった。そのため見た目ほど速度が出ない状況で長距離直進を決めるのはかなりの気力と集中力を要しただろう。

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コース1 優勝者ルート図

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コース2 優勝者ルート図

 

北大は北海道に魅せられた者を増やしたか

北大大会と言えば例年学生が地図調査を行い開催される大会である。しかし北海道は冬には雪に閉ざされ、夏は急成長した藪により植生が大きく変わる。よって調査に適した期間は長くはない。その影響で大会当日の植生を正しく反映するにはかなりの苦労があったという。
調査はほぼ1年前から始まっていたが、夏は春には存在しない極端に成長した藪により植生調査ができない。植生調査の多くは遅い雪解けを待ち、新歓を行いつつ並行して開催1週間前まで行われた。聞くだけでも大変なスケジュールであることは容易に想像できるが、ここ5年では最多の90人を超える参加者数と20人を超える新入部員が彼らへの努力の報いとなったのではないだろうか。 
極寒の大地、少ないリソース、多いとは言えない参加者数、少し山に入れば羆のお出迎えだ。しかし北の大地では北大OLCが今年も大会を開催した。この大会が成功であったかどうかは来年を待たずに夏にはわかるだろう。北海道を愛するオリエンティアがこの夏の「第10回札幌OLC大会(JOA公認カテゴリB)」を逃すわけがない。少なくとも私は今度の大会も出たいと思うには十分な大会であったと感じた。 

40周年を迎えたこの大会は、またしても北の大地に魅せられたオリエンティアを増やしてしまったのかもしれない。

 ▼第40回北海道大学オリエンテーリング大会
http://hoa.m23.coreserver.jp/huolc/HUcompetition40/competition.html

▼成績速報(Lap Center)
https://mulka2.com/lapcenter/lapcombat2/index.jsp?event=4615

 

 

 [WriterMiya]