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#152_苦難を乗り越えたインカレ、小牧と伊部が制す! - 2020年度インカレロング

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10月18日、栃木県矢板市の栃木県県民の森『ミツモチ山麓 ~あつまれ!県民の森~』を舞台に「2020年度日本学生オリエンテーリング選手権大会 ロング・ディスタンス競技部門」(以下、インカレロング)が開催され、男子選手権は小牧弘季(筑波大学4)、女子選手権は伊部琴美(名古屋大学4)が優勝した。

 

※10/21 22:00 女子選手権のルート図を載せるべきところを、誤って男子選手権のルート図を掲載していたので修正しました。

※10/20 1:30 男子選手権の部の来年の地区学連枠に関する記載に一部誤りがありましたので修正しました。申し訳ありません。  

 

前日記事はこちら

okinfo.hatenablog.com

 

 

開催に向けた努力

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、昨年度末の春インカレがインカレ史上初の開催中止となってしまった。いまだ感染が収まりきる気配も無い状況下、今年のインカレロングの開催自体も危ぶまれていた。しかし、関係者の懸命な努力の末(懸命な努力、と一言書くのは簡単だが、背景には本当に多大な苦労があったことは想像に難くない)、今年度のインカレロングは無観客試合で開催できる運びとなった。インカレの開催が決定されても、無条件で参加できるわけではない。活動自粛要請が出ている大学も多い中、インカレへの参加許可をもらえるよう、各校のクラブ員は所属する大学関係者とも交渉を行う必要があった。中には、インカレ開催直前ギリギリのタイミングで参加許可が下りたクラブもあったと聞く。今年度のインカレロングは、参加する学生、運営者、地方自治体、大学…と、関連するあらゆる組織が、例年に無い努力を費やして、ようやく開催・成立に辿り着いたものであることを特筆しておきたい。

 

臨場感抜群! ライブ配信の魅力

無観客試合での開催ではあるが、会場に足を運べない方も大会の様子を見て応援できるように、本大会ではライブ配信が行われた。会場の様子、スタート地区の様子、時折森の中、GPS状況も映したり…と、まるでテレビ番組を見ているかのような内容で、会場にいるのと遜色ないほどの情報を入手することができた(本記事も、自宅からライブ配信の情報のみで執筆している)。たまに音声が途切れるようなトラブルもあったが、初めての試みとしては…いや、これが何度も行われた後だったとしても、「できすぎ」といえるサービスであった。電波確保のため、会場内のスマートフォン等の利用を制限する必要もあったようであり、その辺りの快適さは今後の課題となりそうだ。
インカレの演出技術進歩は著しい。インカレロング2017(関ケ原)で、選手のGPSラッキングを初めて楽しめた際には「インカレの演出もここまできたのか…」と感慨にふけったものだが、その3年後の今日、さらに進化した演出が見られようとは。驚くとともに、運営者の努力と挑戦には頭が下がる思いである。インカレに限った話ではない「オリエンテーリングの魅せ方」という点でも大きな可能性を感じた。

 

3年前に技術進歩を大いに感じた、ICL2017@関ヶ原の記事はこちら

okinfo.hatenablog.com

 

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放送管理席の様子(ライブ配信より)

 

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選手権の部開始前の会場の様子(ライブ配信より)

 

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選手権の部トップスタートの様子(ライブ配信より)

 

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テレイン内の様子。非常にきれいな林である(ライブ配信より)

女子選手権の戦況

選手権の部開始に先立って、コース設定者の橘孝祐のコメントがライブ配信されていたので紹介する(一部抜粋)。

(ロングの大会では)女子クラスのロングレッグは男子クラスよりも短いことがほとんどだと思いますが、今回のロングレッグは男子クラスとほぼ同じ長さとしています。ロングレッグの例ですが、4→5では、ルートチョイスを間違えるとレース全体といても大きな遅れになってしまいます。
かなりアップダウンが激しいテレインで、大きく沢が切れ込んでいるのが特徴となっています。これを(選手に)どう移動させるかというところに苦心しました。ロングレッグにおいては、大きな沢をどうこなすかというところを課題としています。
また、これでもアップが多くなりすぎないように気を使ってコースを組みました。

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紹介のあったWE 4→5(観戦ガイドより)

女子選手権は第1中間が4番、第2中間がロングレッグ後の5番コントロールに配置されている。第2中間までは、近藤果歩(名古屋大学2)が好タイムを記録し、これを破る選手はしばらく現れなかった。第2中間時点では全選手内6位だったが、その後に順位を大きく押し上げてフィニッシュしたのが序盤スタートの阿部悠(実践女子大学3)。阿部は優勝設定65分を切る63:33で選手権トップフィニッシュ。第2中間までは近藤、総合では阿部のタイムが上位争いの指標となった。

第2中間の記録を塗り替えたのが、昨年準優勝の伊部、そして、それを昨年優勝の宮本和奏(筑波大学4年)がさらに更新した。優勝タイムを塗り替えるとしたら、前評判通りこの2人なのだろうか…ソーシャルディスタンスに配慮する応援が成される中、まずは伊部が会場に姿を現してフィニッシュ。伊部は2番目のロングレッグ(9→10)では2分半以上のミスタイムを計上するなど、後半はミスもあったが、先にフィニッシュしていた阿部のタイムをわずかに14秒更新して63:19でフィニッシュ、優勝を勝ち取った。優勝インタビューでは「昨年度の春インカレが開催されなくて悲しい思いをしたが、その分も、今年は最後のインカレという思いでがんばった」と話していた。伊部は、インカレロングでは一昨年3位→昨年準優勝と来ており、最終年度の今年にまた順位を上げる形となった。
ラストスタートの宮本は3位でフィニッシュ。「登りがしんどくて、ビジュアルの後、世良ちゃん(世良史佳:立教大学4)とずっと競っていて、登りでちぎられた。後半1か所ミスしてリロケートが遅かったのは悔しかった」と話していた。言及のあった世良は4位入賞となったが「ロングレッグ後のスペクテーターズレーンがしんどかったが、OLKのみんなが応援してくれて力になった」と振り返っていた。5位は香取瑞穂(立教大学4)、6位には小林祐子(東北大学4)が入賞し、久しぶりのインカレの舞台を楽しんで走っていたようだった一方で、小林は「シード選手としては恥ずかしいくらい現在地ロストやミスを繰り返してしまい、練習しないと(オリエンテーリングは)うまくならないことを実感しました。これから部活も再開できるようになったので、ミドルの優勝に向けて頑張っていきたいです」と話していた。

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女子選手権 上位3名のルート図(GPSラッキングより)

 

男子選手権の戦況

男子選手権についても、橘のコース解説を紹介する(ライブ配信より一部抜粋)。

ロングレッグのルートチョイスはもちろんのこと、タフネスの部分を意識したコースとしています。ロング競技は「キングオブオリエンテーリング」とも称され、タフネスが基本、その後にルートチョイスがあったほうがよいのではないか、と考えてコースを組みました。
ただ、苦労した点としては、タフネスを要求はしていても過激になりすぎないようには配慮しています。

 

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紹介のあったME 8→9(観戦ガイドより)

序盤スタートの中では太田知也(京都大学4)が83:09の好タイムをマーク。その記録を、平岡丈(京都大学2)が82:00で塗り替える。その後ろには二俣真(京都大学2)が続き、京都大学の3人が暫定1、2、3位に君臨する形となった。

その記録を更新したのが朝間玲羽(東京大学3)。朝間は第1中間時点ではトップタイムであり、その後、第3中間では平岡にわずかに遅れる形となっていた。しかし、第3中間後のロングレッグで逆転し、準優勝となった。朝間は「1月に結構大きな怪我をして半年間走れなかったが、2か月でしっかり調整してこの大会に合わせてこられたのはよかった」と話していた。

朝間の後ろから猛烈な勢いで順位を上げ、最終盤で朝間を抜き去った選手がいた。小牧である。小牧は、第1中間こそトップ+2分15秒の6位と出遅れたが、第2中間では3位まで順位を上げていた。第2中間直後のスペクテーターズレーン通過時に、自分が1位でないことを察したという小牧は「いちかばちか、ギヤを上げて後半頑張った」という。その追い上げは脅威的で、会場通過後の11レッグのうち、なんと6レッグが1位ラップとなっていた。13→14のロングレッグは、観戦ガイドでは速くないとされていたルートを選んでいるが、タフネスでトップラップを出す様は圧巻であった。最終盤にはヤブのある急斜面のエリア(運営内ではこのエリアは「反りたつ壁」と呼ばれていたそうだ)もあったが、そのエリアでも持ち前の走力を生かしてタイムを稼ぎ、最終的には、2位の朝間を5分20秒引き離し、76:34の圧勝となった。小牧は「(昨年2位ということで)勝たなければならないプレッシャーがあるのが、今までのインカレとは違うところでした」「インカレは難しいです。めっちゃ焦りました」と振り返っていた。小牧の優勝決定時には、筑波大学の仲間が、ソーシャルディスタンスを保ちつつ「エア胴上げ」をする姿も見られた。

3位~5位には京都大学の平岡、太田、二俣が入賞。京大の強さを印象付け、また、平岡と二俣は2年生にしてロングの表彰台ということで、今後の活躍にも期待がかかる。太田は、表彰式で「最近、(表彰台の)両隣の2回生2人に負けてばかりで悔しく、インカレも不安だったが、今回この3人で並んで入賞できたのは嬉しかった」と話していた。

6位争いは熾烈となったが、ラストスタートの大石洋輔(早稲田大学4)がすべりこんだ。大石は「今までのインカレは順位を気にしていて、つらいというか、自分のレースができなくて悔しかった。今回は順位を気にせず、自分のやりたいオリエンテーリングができて、(それが)それなりにできて満足のいくレースができたが、(上位陣には)力の差も見せつけられました」「この順位なので春までにもう一皮むけて、もう一度頑張りたいです」と話していた。

 

インカレの選手権の順位に関連してもう一つ気になるのが、来年の地区学連枠の行方である。男子の場合、上位30位以内に入った人数分、来年その地区学連からの選手権の部出場者数が増やせる仕組みとなっている(=30位を下回ると、その地区学連からの出場者数が減る)が、本大会の上位30名に入った大学数をカウントしてみると、最も多かったのが京都大学の5名(うち3名が入賞)、そして2位は3校あり、筑波大学東北大学、そしてもう1つがなんと北海道大学であった。北海道大学は、11位に清水嘉人(北海道大学3)が食い込んだのをはじめ、30位以内に4名が入る大躍進となった。今後の活躍にも期待がかかる。

 

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優勝した小牧と伊部(写真は日本オリエンテーリング協会Twitterより)

 

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男子選手権 上位3名のルート図(GPSラッキングより)

 

栃木県県民の森、来年のCC7で再登場!

本大会の舞台となった栃木県県民の森だが、実行委員長の岡崎良昭によれば、矢板里山テレインとは一味違う、植生がよい「秘蔵のテレイン」とのことであった。今回、インカレに参加する学生しかこのテレインを走ることはできなかったが、一般参加者がこのテレインには入れる機会は1年後となることが判明した。
閉会式で発表されたが、栃木県県民の森で来年10月3日のクラブカップ7人リレー(CC7)が開催されるとのことだ。抜群の植生と、急な斜面を有するこのテレインで、来年再び名勝負が繰り広げられることを期待したい。

 

そして、インカレは続く

インカレロングは無事に終了したが、今年度はあと3種目が残っている。このうち、スプリント競技部門は、12月6日に栃木県那須塩原市で開催が予定されており、日本学生オリエンテーリング連盟幹事長の谷野文史が実行委員長となって準備を進めている。
また、ミドル・ディスタンス、リレー競技部門は、来年の3月13・14日に三重県伊賀市青山高原周辺で開催が予定されている。

新型コロナウイルス対応で異例づくしとなった今年、各大学の許可が下りて新歓活動が本格化するのがこれからという大学クラブもある。インカレロングの新人出走数は、MUFが18名、WUFが8名という、例年に比べると大変寂しいものでもあった。また、今回残念ながら出場許可が下りない大学もあった。春インカレでは、より多くの仲間が集って、さらなる盛会となることを願ってやまない。

逆境下で開催されたインカレロングだが、学生が生き生きと競技を楽しんでいたのが印象的であった。学生にとって、ひいては日本オリエンテーリング界にとっても、今後につながる「希望」を見出す大会となった。

 

ZAK氏のインカレ動画

www.youtube.com

 

お知らせ:インカレロング寄付金付き地図販売について

特にOBOG、社会人向けのお知らせとなるが、Japan-O-entrYにて、インカレ実行委員会の赤字補填を目的として寄付金付き地図販売を10/28(水)まで受け付けている旨、インカレ実行委員会より案内があった。

japan-o-entry.com

今年のインカレロングは、参加者数の減少、スプリント大会の中止などで、大きな赤字を計上する見込みとなっている。また、ライブ配信の機材準備にもコストがかかっているとのことだ。
せっかくの「希望」を見出す大会が赤字となっては、継続性も難しいものがある。筆者はインカレ実行委員会の人間ではないが、学生の活躍や運営者の奮闘、ライブ配信の充実に心を動かされた方、来年のCC7に向けて地図を入手してトレーニングしたい方など、多くの方に寄付をお勧めしたい。

 
▼インカレロング2020 観戦ガイド(コース解説)
観戦ガイド(公開用) - Google ドライブ
 
▼インカレロング2020 GPSラッキング
https://icsl2020-live.web.app/


▼成績速報(Lap Center)
https://mulka2.com/lapcenter/index.jsp?event=6093

 
  
 
 

 [Writer : yi+]