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#155_晩秋の青空と紅葉が彩るスキー場、歴史に名を刻む戦いが幕を開ける - 第9回全日本ミドル

11月21日、長野県諏訪郡富士見町『編笠山2020』を舞台として第9回全日本ミドルオリエンテーリング大会が開催され、男子選手権(M21E)は小牧弘季筑波大学)、女子選手権(W21E)は稲毛日菜子(京葉OLクラブ)が制した。また男子ジュニア選手権(M20E)は森清星也(岐阜OLC)が制した。
(※女子ジュニア選手権(W20E)は競技不成立)

 

今年で9回目の開催となった全日本ミドルオリエンテーリング大会は、翌日の全日本ロングオリエンテーリング大会とあわせ2日間連続の開催となった。昨年より全日本ロングが秋季開催に移行したことで、ミドルと合わせ全日本大会は2日連続の開催となったが、昨年は残念なことに台風の影響により全日本ミドルは中止となった。本大会もコロナ禍の中、開催の是非を懸念する声もあったが感染防止を徹底し運営者の努力と地元関係者の多大な支援の元、全日本ミドル・ロング両大会とも無事に開催される運びとなった。
当日は見事な秋晴れで周辺の山々の紅葉が大会会場を彩る。多少の風はあるものの11月にしては寒すぎず絶好のオリエンテーリング日和となった。
大会会場は編笠山の麓に位置するスキー場であり、上方の傾斜変換をスタート地点とし、スキー場中腹を最終コントロールとしたロケーションである。選手権含めすべての選手がこのゲレンデを駆け下りて大会会場付近のゴールへ駆け込むこととなる。
編笠山は巨大な尾根と沢がおりなす比較的急峻なテレインであるが、今回の全日本ミドルで使用されたエリアはスキー場北側の比較的緩斜面で藪や岩石や礫地が比較的多いエリアである。把握しづらい地形の中に藪と礫地が存在し、選手は精密なナビゲーションと正確な技術そして強靭な体力といったオリエンテーリングの総合力が問われるミドルに相応しいコースが提供された。

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会場周りの様子

 

まずW20Eクラスはミドル競技でありながら、近藤花保(名大OLC)が2位以下に8分17秒差という圧倒的なタイム差をつけた。残念ながらW21AクラスとW20Eクラスでポスト番号の設定ミスがあり本クラスは不成立となってしまったが、翌日の全日本ロングのW20Eクラスでも近藤選手は2位以下に8分19秒差で優勝を勝ち取り、その安定した実力がうかがえる。近藤選手は学連登録2年目であるが同年10月に開催されたインカレロング女子選手権でも10位という好成績を収めており、今後の成長と活躍が期待される。

続いてM20Eクラスは、2位と1分49秒というタイム差を見せて森清星也(岐阜OLC)が優勝した。それに続き、2位:平岡丈(KUOLC)、3位:平岩伊武季筑波大学)、4位:二俣真(KUOLC)、5位:永山遼真(筑波大学)と今後の活躍が期待される選手がその名を連ねる。出だしは平岩選手が1番コントロールに躍り出て先手をかける。しかし森清選手は3番コントロール以降で終始一貫してトップタイムを維持し、多少のミスタイムを計上する場面はあるものの他の追随を許さない走りを一貫し見事優勝を勝ち取っている。さらに森清選手は翌日の全日本ロングにおいてもM20Eで優勝を勝ち取っており、ミドル及びロングでその高い実力を我々観戦者に見せつけた。今回入賞した平岡選手、二俣選手はともに京都大学オリエンテーリング部に所属し10月に開催されたインカレロングで2年生ながら入賞を果たし多くの選手と観戦者を驚かせたことは記憶に新しい。しかし、そのような実績ある選手を超える実力を見せつけた森清選手の今後の活躍が目を離せない。

 

そして注目のM21Eクラス、W21Eクラスである。
W21Eクラスの注目は何といってもその圧倒的な走りで数多くのタイトルを勝ち取っている稲毛日菜子(京葉OLクラブ)、そしてその稲毛選手を猛追し優勝への王手を狙う皆川美紀子(みちの会)である。両選手は本大会の1週間前に開催されたWMGプレ大会3日目で3位以下に10分以上の差をつけて13秒差のハイレベルな競り合いを繰り広げている。また両者とも全日本大会ではグランドスラムを達成している実力の持ち主であり、全日本ミドル及び翌日のロングでもその優勝争いが期待され多くの注目を集めた。
やはり会場を沸かせたのは稲毛選手であった。序盤から終盤へ一貫して中間速報ではトップタイムを更新し、多くの選手が44、45分台のタイムの中39分50秒と40分を切るタイムを更新し会場に沸かせる。
しかし、稲毛選手の後発にはまだまだ有力選手が控えている。稲毛選手の対抗馬である皆川選手は序盤で2位ラップをたたき出し稲毛選手に喰らいつくも、3→4で4分以上のミスタイムを計上してしまう。しかし、W21Eの中で最もタフな5→6のレッグで他の選手を引き離すタイムで1位ラップをとり、4位入賞を果たす。
4→5の1位ラップを皮切りに稲毛選手に猛追したのが山岸夏希(桐嶺会)である。山岸選手は稲毛選手に約1~1分半差を維持し追従を続け結果は準優勝と大健闘であった。3位以下は阿部悠(さつまいも)、皆川美紀子(みちの会)、増澤すず(桐嶺会)、宮本和奏(京葉OLクラブ)、と続く。筑波大学関係者が3名も入賞し、近年における筑波大学の実力の高さを見せつけた。また3位の阿部選手は今年度のインカレロングでは準優勝を果たしており、今後のインカレや全日本大会でも活躍が期待される選手である。

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優勝した稲毛日菜子 ※写真は日本オリエンテーリング協会Twitterより引用

そして本大会で最も白熱したのはやはりM21Eクラスである。
歴代優勝経験者である小泉成行(静岡OLC)、寺垣内航(京葉OLクラブ)、谷川友太(LLP木民)、堀田遼(トータス)、結城克哉(トータス)を含め、近年群を抜く実力を諸大会で見せつける伊藤樹(ES関東C)や小牧弘季筑波大学)、1週間前に開催されたWMGプレ大会において2日目3日目で連続優勝を果たした松下睦生(京都OLC)など強豪選手が名を連ねており誰が優勝してもおかしくない状況である。多くの選手や観戦者、そして運営者さえもその戦いに釘付けになった。
10時4分のトップスタートのアナウンスが流れその約1時間半後、会場が一斉にどよめく。戸上直哉三河OLC/トータス)がそれまでの約38分の暫定トップタイムを大幅に更新し34分17秒というタイムをたたき出す。戸上選手といえば2015年度インカレミドルで準優勝を果たし、トップとのタイム差はわずか2秒であったことがいまだに多くの選手の記憶に焼き付いている。今回もそのような優勝争いになるのではと、観戦者、とりわけ東京工業大学の現役生及びOBは期待し、大会のアナウンスの前に釘付けになる。小泉成行:36分13秒、堀田遼:36分06秒、前中脩人(練馬OLC):36分27秒と続々と強豪選手が入賞戦線に入り込む、が、トップタイムを更新する選手がなかなか現れない状況が長く続く。
しかし、小牧選手の中間速報のトップタイムの更新がアナウンスされることでその沈黙を破られる。小牧選手は32分12秒という、暫定トップを2分縮めるタイムでスキー場からゴールへ駆け下りた。優勝設定タイム35分を切る中においてトップタイムを2分も更新することは決して容易なことではない。「さすが小牧選手!」と会場からは歓声が上がる。小牧選手は7番コントロールまでは暫定6位であったが、7→8のレッグの1位ラップを皮切りにトップタイムを維持し続けた。7→8はコンタ約28本を上るバーティカルレッグであり本大会で最長かつ最もタフなレッグであったが、他の有力選手が8分台のラップで通過する中、小牧選手は7:00をたたき出しそこで他の有力選手を引き離しトップに躍り出る。まさに勝敗を分けるに至ったレッグであった。
小牧選手の対抗馬、伊藤選手もゴールに近づく。戸上選手がわずかにミスタイムを計上した9→10、10→11で2位ラップをとり暫定2位の位置に躍り出る。その後は目立ったミスもなく12番、13番で小牧選手に約40秒差で近づき会場を沸かせるが、小牧選手に後1歩及ばず準優勝となった。
優勝設定タイム35分を切るなかで小牧選手、伊藤選手、戸上選手が見せた白熱の戦いは多くの観戦者に驚きと感動を与えた。

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優勝した小牧弘季 ※写真は日本オリエンテーリング協会Twitterより引用

 

本大会の翌日は同テレインで第47回全日本ロングオリエンテーリング大会が開催された。本大会のテレインを南東及び北側を拡張し、編笠山の急峻で巨大な尾根沢を隈なく使用して近年まれにみる非常にタフなコースが組まれた。本大会以上に会場を沸かせるドラマが以下の記事で描かれているため是非ご一読いただきたい。

okinfo.hatenablog.com

 

全日本ミドル・ロングのエリートクラス参加資格の付与には、来年度以降、公認大会の成績に加えランキング制度が導入されることとなる。開催回数が少ない、または遠隔地で実施される場合に参加のハードルが高くなることを懸念し、実力ある選手に確実に選手権の資格を授与するため新たなレギュレーションへの移行となる。真に実力ある選手が集い、この大舞台で本年以上の活躍と感動を与えてくれることを筆者は切に願う。

 

今年度の全日本大会終了後、SNS等では全日本大会に関する各選手の勝利の喜びや反省、感動や驚き等数多くの投稿が確認された。老若男女日本中のオリエンティアたちが楽しみ、憧れ、注目し、目指し、自信のライバルあるいは自分自身と競う大会が全日本大会であると筆者は確信する。

来年度以降も本年以上に手に汗握る戦いが繰り広げられ、多くのオリエンティアに感動と驚きを与える大会になることを切に願う。改めて、素晴らしい大会を開催いただいた運営者のみなさん、コロナ禍でありながら多大な支援をいただいた地元住民の方々、心の底から競い楽しんでいただいた選手のみなさんに感謝の意を表したい。

 

 

 [Writer : Takumin]