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2017年1月よりスタートしたオリエンテーリング関連のニュースサイトです。関東を拠点に、手の届く範囲でですが大会記事などをお届けしていきたいと思います。

#168_北の大地より、平らの美学を求めて - 第26回札幌OLC大会

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7月10-11日、北海道千歳市『千歳分水嶺』『厚平内林道』にて第26回札幌OLC大会が開催された。
総合成績ではM21Aは清水嘉人が、W21Aは皆川美紀子(みちの会)が制した。

  

突然だが「高速テレイン」というとどのような地図をイメージするだろうか。
傾斜が緩く、道が多いないし藪が非常に薄い、そのような地図がイメージされるだろう。
そのような要素を含むという意味であれば、今回実施された『千歳分水嶺』『厚平内林道』の地もまた「高速テレイン」であった。
しかし、様々な"クセ"を持つ北海道テレインがただ「高速テレイン」の一言で形容されることを許すのだろうか。

まあ、例によって変なテレインなのだが。

 

空港至近の住宅地から一歩踏み出すと新世界...でもちょっぴりデンジャラス?

一般にアップ率はコース組みに左右されるが、4%程度であれば競技エリアが緩斜面ないし平坦な部分が多いことが窺えるだろう。
では今回の札幌OLC大会のアップ率はどの程度だったのだろうか。

 

ミドル0.2%前後・ロング2.7%前後である。

決して計算ミスではないので、Lapcenterや要項からコース情報を確認して欲しい。異次元の登距離が記されている。(特にミドル)

 

アップ率0.2%とは5kmで10mしか登らないようなコースであり、ミドルM21A/W21Aでは競技中に跨ぐ主曲線は何とたったの1本きりであった。
もはや「起伏に乏しい」どころではない「起伏がほぼ存在しない」のだ。
ミドル・ロングテレインでありながらここまで起伏が少ないということは本州では考えにくく、やはり北海道ならではと言って差し支えないであろう。

 

では新千歳空港から直線距離で10㎞足らず、札幌からでも40㎞程度とアクセスも良好なこのエリアが札幌OLCだけでなく北海道協会・北大OLCと大会開催頻度の高い団体を抱える北海道において、今日まで日の目を見なかったのは何故だったのだろうか。
答えは大会プログラム中の「獣害についての考察」に記されていた。

当該地区がオリエンテーリング競技に適した地区でありながら、今までテレイン開発されずにいた理由はヒグマ出没情報があまりに多くて安全を担保できないという考えによるものでした。
しかし、平成も末期になると環境の変化によるものかわかりませんが、ヒグマと無縁だったはずの札幌市内住宅地にも出没するようになり、柵で覆われた国営公園内には穴を掘って地中から進入する事象、はたまた海を泳ぎ渡り離島にまで出没するといった事象も認められ北海道内ヒグマが出没しないと確約できる地区がなくなったとも言えます。
(後略)

つまるところ、あまりにもヒグマの出没情報が多く開発を避けていたが、そもそも北海道においてはたとえ市街地であってもヒグマの遭遇リスクが存在するため、十分に対策を講じた上で入林するよう方針転換がなされたというものである。
なお、本テレインの至近には第35回北大OLC大会(2013年開催)テレインの『ポンマテカチ 泉沢~平らの美学~』が存在するのだが、こちらの方が千歳市街地に近いにも関わらず大会直後にヒグマの目撃情報があり、それ以降このエリアは練習会も含めほとんど利用されていない状態であったことからも札幌近郊では特にヒグマリスクが高いエリアと考えられていたことが窺える。(実際にはヒグマ問題だけでなく、渉外上の理由も存在している。)
いざスタートした選手は今回の地図作成を単身で完遂した運営責任者山田健一の度胸を感じただろう。

もちろん地図の描き込みからは度胸だけでなく細部へのこだわりも感じられたはずだ。

 

作図に関しては札幌OLC大会では恒例となった調査日記が今大会でも作成されている、是非目を通して欲しい。

本記事だけでは紹介しきれない当エリアの魅力やコロナ下の大会運営など様々な面を知ることができるだろう。

spk.gob.jp

バクシンせよ!究極の平坦地が君を待つ

ここまで散々平坦だのヒグマだの語っているが、さて、実際の地図はどのようなものだったのだろうか。

まず1日目ミドルの地図を紹介する。

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1日目ミドル M21A

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1日目ミドル W21A

実際に地図を見てどのように感じただろうか。

本来オリエンテーリングのルートプランは距離・走行可能度・難易度と共に登距離の要素を考慮して行われるところだが、この地図には登距離の概念がほぼ存在しないと言える。
極端に言ってしまえば白い部分を全力で走れるのであればほぼ全て直進してしまっても良いのだろうが、十分な技量と自信がなければショート、オーバー、パラレルとミスの大安売りとなるだろう。
また、今大会では「倒木の根」が特殊記号として定義されており、この「倒木の根」を用いたコントロールは特定の方向からは視認ができず、コントロールのすぐ近くを通り過ぎてしまう選手も少なからず見受けられた。

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倒木の根の例、高さ1.2m以上かつ幅1.5m以上のものが地図中に記載されている


位置記号上では倒木の根のどの方角にフラッグが設置されているかが記載されており、平坦で白い森ということもあり概ね記載の方角から120°以内からアタックできれば到達は容易であった。


完璧に直進を当てることができるのであれば愚直に直進しても良いのかもしれないが、実際には設置位置を考慮してルートを組むことができたかという点も問われており、直進を正確に当てながらもこの倒木の処理を誤らなかった選手が好成績を残すコースだったと言えるだろう。

 

平坦だけでは物足りない?大変結構、では特殊な植生をご用意しましょう

続いて2日目ロングの地図を紹介する。

1日目が極端に平坦だったために起伏がしっかり存在するように見えなくもないが、やはり1/15000の地図にしては等高線の存在が薄いと感じられるだろう。

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2日目ロング M21A

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2日目ロング W21A

2日目のロングでは1日目に少しだけ顔を出していた要素が本格的に登場する。

「植樹筋」である。

これは字の通り筋状に植樹されたものだが、具体的に言うと膝丈ほどの幼木が50㎝ほどの間隔で植えられたものである。
植樹筋はこのエリアの主要な特徴物であるためプログラム中にも例として写真が掲載されている。

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植樹筋、このような光景がテレイン内のそこら中に存在する

写真を見るとわかるが、この植樹筋は小径のように走り抜けることができ、ルートプランにおいても重要な役割を担う。
典型的なものがM21Aの8番コントロールだろう。

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沢を横切る植樹筋の中にあるコントロール、植樹筋を正確に捉える技術が求められる

このコントロールの位置表示は沢だが、沢のある南北方向には現地での印象ではD藪一歩手前というC藪があるため、素朴に沢を詰めるようなアタックは非常に厳しいものとなる。
ではどのようにアタックするのだろうか、答えは単純だ。
北東の小径の曲がりから数えて4つ目の植樹筋、または小径の西側にあるこぶの直近にある植樹筋から北に3本目の植樹筋に入ると容易にコントロールへ到達することができる。素朴に植樹筋の本数を数えさえすればよいのである。

(実際にはほぼ全力に近い走りの中でコントロールが設置されている植樹筋が何本目かを読むことになるため、かなり神経を使うことになる。揺れる視界の中で最小寸法ギリギリで表現された帯の何本目に円の中心があるかを捉えなければならないと言えば難しさが伝わるだろうか。)


今更ではあるが、この植樹筋は地図内全てにおいて正確に表現されており、この地図において特有のルートプランを生む要因となった。
一部が藪を貫通せず途切れているように見えるが、これは本当に記載通り植樹筋が途切れ藪に突き当たっているのである。
(地図下部の東西方向に延びる植樹筋が典型。多くの植樹筋が藪を貫通しておらず、安易に直進すると藪に絡めとられることになる。藪を突き破る覚悟とパワーがあれば道走りより早いかもしれないが...)

なお、違う筋に入ると1本あたり10m程度と短くも強烈な藪漕ぎを強いられることになる。おおよそ20秒程度のロスとなるだろう。

 

また、地図中央から下部にかけては南北方向に植生界がほぼ等間隔に存在する。

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南北に延び東西に連なる植生界、現在地の把握が難しくミスタイムを生じやすいエリア

これは針葉樹と広葉樹の植生界がお互いに切り替わる部分を表現したものでありトレースは容易であるが、乗る筋を間違えるというありがちなパラレルを犯すと最後、明確な特徴物がない白い林で現ロスの憂き目に遭うことになる。
クロスする場合も植生界を通過した本数をしっかり数えていれば良いが、1本でも間違えようものなら簡単に吹っ飛んでしまっただろう。

 

札幌OLC大会は夏のミドル/ロング大会としての地位を確立できるか

3年ぶりに開催された札幌OLC大会であるが、今回も冷涼な北海道において爽快なレースを提供してくれた。

近年は隔年開催でありながらも一定数の参加者を確保し続けていることから、参加者の期待値と満足度の高さが窺える。

そんな札幌OLCだが、詳細情報は未公開であるものの既に来年(2022年)の開催を目指して準備を進めている模様だ。

札幌OLC大会は、オリエンテーリングという非日常の中でも更に非日常と言える環境を次回も提供してくれるのだろう。

 


▼Day1ミドル:成績速報(Lap Center)
https://mulka2.com/lapcenter/index.jsp?event=6480
 
▼Day2ロング:成績速報(Lap Center)
https://mulka2.com/lapcenter/index.jsp?event=6484

  

参加者が撮影したレース中の動画

◆Day1:ミドル(Yuki Saitho氏 撮影)
オリエンテーリング#60】第26回札幌OLC大会Day1ミドル@千歳分水嶺【GoPro8 | Orienteering】

www.youtube.com


◆Day1:ミドル(Takashi Irie氏 撮影)
オリエンテーリング】札幌OLC大会 Day1 Middle M21A 2021-07-10 Orienteering Headcam

www.youtube.com


◆Day1:ミドル(普通のマイク氏 撮影)
令和3年7月10日 札幌オリエンテーリングクラブ大会 ミドルディスタンス M21A 素人が走るとこうなる

www.youtube.com


◆Day2:ロング(Yuki Saitho氏 撮影) 
オリエンテーリング#61】第26回札幌OLC大会Day2ロング@厚平内林道【GoPro8 | Orienteering】

www.youtube.com


◆Day2:ロング(Takashi Irie氏 撮影)
オリエンテーリング】札幌OLC大会 Day2 Long M21A 2021-07-11 Orienteering Headcam

www.youtube.com


◆Day2:ロング(普通のマイク氏 撮影)
令和3年7月11日 札幌オリエンテーリングクラブ大会 ロングディスタンス M21A 素人が走るとこうなる 9ポに行く途中で電池切れ

www.youtube.com

 

 [Writer : Miya]