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2017年1月よりスタートしたオリエンテーリング関連のニュースサイトです。関東を拠点に、手の届く範囲でですが大会記事などをお届けしていきたいと思います。

#170_「道」無き「未知」を走破せよ! - 新・北国O

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10月16-17日、北海道札幌市および北広島市にて新・北国Oが開催された。Day1 Longは宮本樹(京葉OLクラブ)が制し、Day2 M21Aは殿垣佳治(練馬OLC)が、W21Aは酒井佳子札幌農学校)が制した。

 

 

…そもそも新・北国Oって何?

この新・北国O、元々は北海道大学オリエンテーリング大会(北大大会)として企画されていた大会である。しかし昨今のコロナ禍により大学からの部活動の許可を得られず、やむなく中止か…と思われたところに北海道オリエンテーリング協会(道協会)が救いの手を差し伸べ、道協会主催として「北国O」に名前を変え開催することが可能となった。しかし今度は北海道に緊急事態宣言が発令、会場が閉鎖となってしまったため大会はあえなく延期となってしまった。結局北国Oは10月に延期され「新・北国O」と再び名称を変更し、そしてこの度ようやく開催することができたのである。すなわち新・北国Oは「大協合作」のウルトラCと緊急事態宣言による無念の延期の末に開催されているということが分かる。新・北国Oは、運営者の「なんとしてでも大会を開きたい」という執念が実った大会なのである。
その執念を実らせた運営者の一人、副大会責任者の堂垂悠人に話を伺った。

―大会運営お疲れ様でした。本大会は大会名の変更や延期など、開催まで多くの困難があったと思いますが、大会を開催したことについての想いを聞かせてください。

堂垂:はじめは単純なオリエンテーリングへの好奇心から準備に勤しんでいました。しかし、大学生活の忙しさや運営メンバーとの考え方の違い、感染症による情勢の不安定さも相まって“何のために運営やオリエンを頑張るのか?”を幾度となく考えることに…。思索の末、やはり自分は“初めての大会運営をこのメンバーで成功させたい”という想いから運営をしていることに気付きました。大会運営はなかなかハードでしたが、この想いは最後まで忘れずに運営に取り組めたと考えています。

―本大会のDay2のテレインは島松でした。島松で大会が開催されるのは4年ぶりですが、改めてこのテレインでの開催に至った経緯を教えてください。

堂垂:北大OLCのホームテレインである島松は以前から地図、特に等高線の改良の余地を指摘されていました。しかし、学生による修正には限界があり、“北大OLC基準の地図”と自虐する部員やOBOGも少なくありませんでした。プロマッパーに調査を委託して島松を全国基準の地図に刷新することで、学生の競技力向上や『ブランド化』にも繋がると考え、この選択に至りました。

―その「ブランド化」という言葉はプログラムの挨拶の中にも用いられていました。具体的にはどのような方向性でのブランド化を目指されているのでしょうか。

堂垂:そこまで大した考えは持っていなかった…(笑) そうですね、北海道のテレインって笹の下草はあれど割と白くて平坦なテレインが多いと思うんですよね。こんな良テレインを道内オリエンティアだけで享受するのはもったいない。全国のオリエンティアにもこの良さを体感してもらい、「北海道のオリエンテーリングは一度は経験するべきだよ!」と言われるようになることが「ブランド化」の目標です。自分含め色々な方の努力によってこの目標が達成される日を妄想しています(笑)

―新・北国Oはそのブランド化を進める大きな一歩になったのではないでしょうか。お忙しい中ありがとうございました。

北海道らしい総合公園でのDay1

Day1は北海道随一の面積を有する総合公園、真駒内公園にて行われた。真駒内公園札幌オリンピックのメイン会場になった公園であり、開会式の会場となった真駒内セキスイハイムスタジアムや閉会式の会場となった真駒内セキスイハイムアリーナなどが敷地内に存在する。公園の大部分は芝生広場や森林で構成されており、北海道の総合公園らしい広々として開放的な雰囲気が特徴の公園である。
筆者は諸事情によりDay1には参加できなかったが、参加者は広大な敷地を活かした雄大なコースを堪能したことだろう。

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Day1 会場の様子


北海道が誇る至高のテレインでのDay2

Day2は北広島市にある北海道屈指の難テレイン『島松・南の里』で行われた。唐突であるが読者の皆様は「難テレイン」と言われてどのようなテレインを思い浮かべるであろうか。筏場や伊豆大島のような火山地形を有するテレインや、青年の城や上桐生のような急峻かつ微地形が連続するようなテレインが恐らく一般的に想像されるのではないだろうか。島松・南の里はそれらのどちらにも当てはまらないが、しかしハッキリと難テレイン、いやそれだけにとどまらないオリエンテーリングの神髄を味わうことのできるテレイン」だと言えよう。
言葉で語るより地図を見てもらったほうが早いだろう。Day2のM21AおよびW21Aのコース図をご覧いただこう。

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Day2 M21Aコース図

 

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Day2 W21Aのコース図

「プリンターの黒インク抜いた?」と思った方、不正解である。てかそんなことランキング対象大会でできるわけないでしょ。
そう、このテレイン内部には道や小径がほぼ存在しないのである(ついでに岩も無い)。また水系もテレインの北端にあるのみで内部には存在しないし、植生界もわずかしか存在しない。つまり、このテレインにおいて辿ることのできる唯一の特徴物は尾根沢のみなのである。
またその尾根沢も他のテレインで見たことのない形状をしている。大きく平たい、されど比高はさほど高くない尾根沢が並行に走り、場所によってはその中にまた小さな尾根沢が並行して存在している。何が言いたいのかというと、「めっちゃパラレルする」のである。一度間違った尾根沢に入ったが最後、ほとんど同じ向きの地形から現在地を把握することは困難である。運よく近くに点状特徴物があればいいが、もし周囲に見当たらなければ地形の大きさや形状といった、あるようでほとんどないヒントからリロケートを行わなければならない。しかもそれが最初から最後まで続く。トッポもビックリの中身の詰まり方である。
つまるところこのテレインでは「地形を駆使しつつ方向と現在地を維持し続ける」ことが終始求められる。これはまさにオリエンテーリングの神髄ということができるのではないだろうかと筆者は思う。
ここでコースセットに携わった副コース責任者、高木一人にインタビューを敢行した。

―大会運営お疲れ様でした。今大会のコースに関しまして、まずこの島松・南の里というテレインそのものについて、どのようなテレインだと感じていますか?

高木:「島松・南の里」の地形を簡単に言うと、傾斜が緩くて幅が広くて大きい尾根から、あらゆる方向に細長い尾根沢が伸びていて、そこからさらに細かい尾根沢がくっついており、簡単にパラレルするテレインですね。他のテレインだと道たどりの時とか直登する時とかに頭を休める時間が作れるんですけど、ここは気を抜くとパラレルするので、競技中ずっと集中してないといけないのが難しいポイントだと思います。設置の時も会話して気を抜いてたら軽くツボりましたしね…

―筆者も気抜いてたら△→1からツボりました(聞いてない)。個人的に今大会のコースは難しいながらも爽快感があるといった素晴らしいコースセットだったと感じたのですが、改めて今回のコースのコンセプトを教えていただいてもよろしいでしょうか。

高木:どこにポストを置こうかなと考えながら地図を見てたら、コンタ線1本分の緩い沢や、尾根でも沢でもない斜面の微妙な位置にある小さなこぶを発見してしまったので、比較的長いレッグでそこにアタックさせれば勝手にミスってくれるやろと思って、そういうレッグを何個か作り、全体のバランスとか見ながら調整してコースが出来上がったという感じですね〜。あと、レースの最後で藪が薄くて走りやすい場所を簡単なレッグで走らせることによって、終わりよければ全てよし理論で全体の印象を上げ、あわよくばまた北海道の大会に来てもらえないかなという邪な気持ちも加えました!
今回のコースは北海道オリエンテーリング協会の信原靖さんのお力添えにより完成していて、コースの良し悪しを何度も判断してもらい、修正してまた修正して…の繰り返しで最終的に完成しましたね〜。無事に完成してよかったです!

―…筆者完全に策略に嵌ってますね。では続いてM21AおよびW21Aのコースの中で勝負レッグとその解説をしていただきたいのですが。

高木:M21Aの16→17はレース終盤のロングレッグかつ最大の難関で、ここでミスるともう挽回することは難しいですね。想定ベストルートとしてはレッグ線の少し右側をまっすぐ走るというルートです!ただ距離が長いのと緩い尾根沢を何回か横切るので方向がずれやすく、ポストついてる場所が難しいっていうところが嫌になりますよね。

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M21A 16→17の想定ルート(水色)

高木:W21Aの12→13はまた別の難しさがありますね。想定ベストルートはレッグ線の少し右側を沢をたどって行くルートです!このルートは沢から登るタイミングで現在地が分かり、アタックがより確実にできるのがポイントです!ポストの位置が分かりにくく、ショートランやオーバーランに気を付けて慎重にこなす必要がありますね。また、とある方からはこのレッグが全部のクラスのコースの中で一番難しいレッグと言われました。確かにこれは難しいですね…

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W21A 12→13の想定ルート(水色)

―どちらも島松らしさ全開のレッグでゾクゾクしますね!
テレインやコースに対する熱意や愛情が伝わってきました。お忙しい中ありがとうございました。

 

幾重もの調査者を解脱させてきたテレインは、匠の手により洗練される

また本大会の売りは北海道屈指の難テレインで開催されることだけではなかった。なんと本大会ではNishiPROによる地図のリメイクが行われたのである。過去何度かこの地で北大大会が開催されたことはあるが、大会プログラムの冒頭にも記載されているようにこのテレイン内にはレーザー測量が入っておらず、加えて前述のように他に類を見ない地形をしていることから経験の浅い大学生による地図調査は困難を極めていた。実際前回本テレインで行われた大会である第39回北大大会では、「絶対もっとアップある」「地図上で描かれている沢が存在しない」「地図上に無い沢や穴がある」「今までのオリエンテーリングの全てを否定された」「競技時間が短い」「給水が少ない」「クソ暑い」などの意見が寄せられていた(最後の方は地図関係無いが)。
これらの意見を受けた北大OLCでは、次回島松で大会を開く際には自分達で調査を行うのではなく、確かな調査能力を持つプロマッパーに地図調査を依頼することを決定。そして今年、遂に時が満ちて島松での大会開催に至ったのである。
実際旧図と今大会の地図を比較してみると、圧倒的に表現が洗練されたような印象を受ける。自信のなさからかフワッと描かれた地形もメリハリのある表現へと生まれ変わり、何度もこのテレインに入ったことのある筆者は「これよこれ、こういうことが言いたかったんよ!」と感動のあまり思わずレース中に涙してしまった。匠の手により生まれ変わった地図は、何度も島松に入ったことのあるオリエンティアでも非常に新鮮に感じられたことだろう。そういった意味では島松のリピーターでも未知なるテレインのように楽しむことができたのではないだろうか。

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旧図(紫)と本大会の地図(茶)を重ね合わせた図(もやしソルベ氏提供、一部抜粋)

 

北海道でオリエンテーリングをすることの魅力とは

近年、Do-ringenや札幌OLC大会、そして今回の新・北国Oなどを通じて、道外のオリエンティアから北海道のオリエンテーリング大会に俄かに注目が集まりつつあるように感じる。本州から高い金を払って飛行機に乗ってでも北海道の大会に参加しようと思わせるその魅力とは何か、と問われたら、筆者は「他のどこにもないワクワクさせるテレイン」(とそのついでに観光もできること)と答える。
近年の北海道テレインについては、多くのオリエンティアが一度は妄想したであろう遊園地でのナイトO(ルスツリゾート)や廃ゴルフ場を使用した欧州チックなテレイン(日暮山)、「コンタ描き忘れた?」と思わせるほどに平坦すぎるテレイン(千歳分水嶺)に「This is オリエンテーリング」と思わせるテレイン(島松・南の里)など、他のどこでも味わうことのできない唯一無二のオリエンテーリング体験を毎回提供してくれている。北海道まで行ってその日その大会に出場しなければ絶対に味わえない特別感、これがあるからこそ遠隔地である北海道の大会に参加しようと思える、そんなオリエンティアは多いのではないだろうか。
また筆者にとっては運営者との距離を近く感じられるというのも好印象だ。最も代表的なのは札幌OLC大会の調査日記であろうか。札幌OLC大会の調査日記は最早一つの名物として地位を確立しているが、運営者の本音やテレインの本質的な情報などを通じ、大会そのものの魅力を伝えることに成功している。新・北国Oにおいては大会に合わせ北大OLCの部誌である「PENA」が発行され、大会会場で公開されていた。運営者の紹介や歴代地図の紹介、オススメの観光地や挙句の果てにはオススメの小説まで記載されている。こういった「運営者の顔が見える」といったところも、「あの人が運営してるから大会に参加しよう」と思わせる一因になっているのかもしれない。
ちなみに余談だが、筆者は札幌に行った際には必ずセイコーマートのカツ丼とたおかの油そば(チーズ盛倍盛)を食べるようにしている。食べたことのない方は是非食してみてほしい(宣伝)。

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大会当日に発行された北大OLCの部誌「PENA」


 
繋がる!広がる!島松の大会はまだ終わらない!

最後に今回事前に公表されていた旧図をご覧いただこう。

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島松・南の里の旧図(解脱の杜)

今大会の地図と見比べると、大きな違いがあることにすぐに気付かれるのではないだろうか。
そう、本大会ではテレイン全体の南半分しか使用していないのである。今回使用されなかった北側の部分は南側と様相が大きく異なり、指のように延びる細長い尾根沢や、ノコギリの刃のような細かな尾根沢の連続、果てには謎のさばんなちほーまで存在する変化の大きいテレインとなっている。運営者によるとこの北側もプロマッパーによるリメイクが検討されているようで、また新たなる未知を堪能させてくれそうだ。南側と異なる性質を持つ北側、そしてそれらを連結させた究極完全体と、島松はまだ2段階変化の余地を残している。今後もこの島松というテレインからは当分目を離せそうにない。

 

参加者が撮影したレース中の動画

◆【オリエンテーリング#75】新・北国O Day1@花魁淵【GoPro8 | Orienteering】(Yuki Saitho氏 撮影)

www.youtube.com

 

◆【オリエンテーリング#76】新・北国O Day2@島松・南の里【GoPro8 | Orienteering】(Yuki Saitho氏 撮影)

www.youtube.com 

 

 [Writer : Salt]