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#178_自由に駆け回る役者であれ - 2021年度インカレスプリントは森清&松本が制す

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11月20日、栃木県矢板市矢板運動公園』にて2021年度日本学生オリエンテーリング選手権大会 スプリント競技部門(インカレスプリント)が開催された。
激闘の末、男子選手権は森清星也(早稲田2)、女子選手権は松本萌恵(神戸3)が優勝を飾った。

 

 

出走前の選手の様子

当日朝、筆者は選手権待機所に立っていた。1年前は画面を通して見ていた憧れの舞台に立っているのである! おや、思いを馳せているうちに気付けば続々と選手が来ていたようだ。

同じ目標を見据えて研鑽を積んできたライバルしかいないということで、待機所の場所取りからトイレの個室利用までバチバチの様相を呈しているのではと勝手に考えていた(そんなわけない)が、そこには大会前に存分にリラックスする選手の姿があった。
選手権出場者が多く巨大なテントを協力して設置する大学、スプリント地図を黙々と読む者、なかなか会えない他大の学生と雑談に花を咲かせる者、遠征疲れで爆睡する者、出走時にコンディションのピークを持ってくる方法を指南するオフィシャルなど…。穏やかな天候とアットホームな雰囲気に包まれ、筆者もつい微睡んでしまった。

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実家のような安心感の待機所 (Photo By @peaching20)

どうやら出走時刻が近づいてきたらしい。待機所の緊張感が徐々に増し、集合して円陣を組んだり、応援歌を歌うことで士気を高める大学も多く見られた。トリムに着替えて、ウォームアップをして、オフィシャルに背中を押されて…。
さぁ、最高のパフォーマンスを魅せよう。

 

コースの概要

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MEのコース図

 

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WEのコース図

これが今回使用されたコースだ!
選手権出場者の1人として今回のコースについて所感を述べよう。コースの回しは誘導距離とコース概要からある程度予測していた。しかし何より驚いたのは、野球場での人工柵の多用だ。ここまで複雑なルートがたくさんあると、どのルートがどれほど短いかなど殆ど分からないのである。果たしてME/WE 3→4レッグの想定ベストルートが見えた選手はいたのだろうか…。

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話題を呼んだ3→4レッグのルートチョイス(観戦ガイドより)

野球場と同様、ビジュアル付近にも人工柵が多用され幅広いルートチョイスを生み出していた。選手がどこからビジュアルに進入し、どこへ抜けていくかも分からないという緊張感と期待が入り混じり、応援にも熱が入る。観戦エリアと競技エリアの距離も近く、選手は浴びるような応援の中を突き進まなければならない。ME/WE 13→14レッグはそんな中でも冷静な判断をできるか否かが問われ、できない場合は晒し上げられてしまうようなレッグであった。

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ビジュアル脱出の13→14レッグ、ルートチョイス(観戦ガイドより)

テクニカルミーティング資料で話題となった様々な通行不能の柵や線状の藪の利用もいくつかのルートチョイスに関係した。資料が公開された当初は困惑した選手も多かったようだが、柵の位置の特定やコース予想などで予習をした選手はレースをより上手く進められたことだろう。

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テクミ資料で公開された様々な通行不能の柵たち

そしてMEコース終盤には極限まで追い込まれた選手に大きく難しいルートチョイスを迫るという最後にして最大の難関レッグ19→20が置かれている。(ちなみに筆者は追い込まれた末に圧倒的負けルートを選んだ、つら)

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最後にして最大の難関、19→20レッグのルートチョイス(観戦ガイドより)

 

総じて、アップダウンや走行可能度、プランの複雑さなど様々な課題が問われており、限られた距離とコントロール数の中で最大かつ最良のルートチョイスを作り出せるよう試行錯誤された様子が伺える。まさに、インカレという場にふさわしい難易度のコースである。
コースプランナーの北見匠氏による素晴らしい演出は選手のパフォーマンスをさらに輝かせた。
躍動する選手の姿をとくとご覧あれ。

 

レースの展開

スプリント競技らしく、レースの展開は目まぐるしく変化していった。選手たちの活躍を余すことなく見たい方はYouTubeに公開されているライブ配信のアーカイブをぜひ視聴してほしい。

まずは女子選手権が始まった。
最初に頭1つ抜け出したのは樋口佳那(筑波1)。上級生やオフィシャルの愛を一身に受けて育ち、1年生ながら力強い走りを見せた。続いて、中神智香(静岡4)が樋口のタイムを上回ってのフィニッシュ。最大の武器と話していた巡行を存分に発揮した。さらに、近藤花保(名古屋3)がついに15分を切る好走をし、優勝・入賞争いをヒートアップさせる。長瀬麻里子(お茶の水女子3)も安定した走りで入賞圏内へ滑り込んでくる。
そんな混戦の中、目を見張る速さでビジュアルを走り抜ける選手がいた。松本萌恵(神戸3)だ。緩急の多いコースに苦戦する部分もあったそうだが、終わってみれば優勝設定ピッタリの14分での暫定1位であった。松本がインタビューを受けている中、デッドヒートを演じたのがラスト出走の阿部悠(実践女子4)。コース終盤は会場付近のコントロールの回しが多かったことから手に汗を握って観戦する選手も多かったことだろう。あと30…20…10秒と優勝確定時刻が迫る中、必死にフィニッシュへと向かう阿部!どちらが勝つのか!

フィニッシュタイム14分15秒! 松本の優勝が確定した瞬間であった。
松本は「今年度大きく成長できた理由はオリエンテーリングを頑張っている選手をたくさん見てこられたため」と話しており、特に2位の阿部とはワンツーフィニッシュを飾ろうと約束していたそうだ。インカレ優勝という大きな目標を早くも有言実行した彼女のこれから目指す場所はどこなのか、今後も注目したい。

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女子選手権表彰式の様子(Photo By @syuri_ppc)

 

男子選手権でも白熱した勝負が待っていた。
まず、会場を沸かせたのは伊藤元春(東京4)。暫定2位に1分近くの差をつけてのフィニッシュ。前半出走者の基準となるタイムを立てた。続いて、菅波崇志(筑波3)が第二中間から順位を上げて暫定2位のタイムでフィニッシュ。前半のミスを取り返すかのような粘りの走りを見せた。
そしていよいよ期待のシード選手たちがスタートする…。シード選手1人目の森清星也(早稲田2)が遂に伊藤の出したタイムを40秒近く更新した。圧倒的なタイムだ。続いて朝間玲羽(東京4)がフィニッシュ。昨年度は怪我にも苦しんだようだが、流石の安定した走りを見せて暫定2位に躍り出た。さらに、昨年度入賞者の本庄祐一(東京3)が3位のタイムでフィニッシュ。JWOC2021出場を皮切りにデンマーク遠征などを経て力をつけた入江龍成(早稲田3)が5位でフィニッシュ。これ以降も優勝・入賞相当のタイムを出す選手はおらず、ついに森清の優勝が確定した。
森清は「1位になれたものの他の選手と同様にミスはいくつか出てきてしまった。このままでは1位を維持するのも難しいと思うため、更に成長していきたい」と語る。今後もスプリントの首位を譲るつもりは全く無いようだ。インタビュー最後には運営者への感謝の言葉も忘れないスポーツマンシップ溢れる優勝者に最大限の賛辞を送りたい。

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男子選手権表彰式の様子(Photo By @syuri_ppc)

2021年度インカレスプリントの結果は以下のようになった。

<女子選手権>
優勝:松本萌恵(神戸3)
準優勝:阿部悠(実践女子4)
3位:近藤花保(名古屋3)
4位:中神智香(静岡4)
5位:樋口佳那(筑波1)
6位:長瀬麻里子(お茶の水女子3)

<男子選手権>
優勝:森清星也(早稲田2)
準優勝:朝間玲羽(東京4)
3位:本庄祐一(東京3)
4位:伊藤元春(東京4)
5位:入江龍成(早稲田3)
6位:菅波崇志(筑波3)

 

今後の展望

昨年度と同様、インカレスプリントの開催は新型コロナウイルスによって危ぶまれた。地区学連のスプリントセレクションも延期を重ねた他、矢板地区での大会開催も一筋縄ではいかなかったようだ。学生全員が主役となれるこの舞台は多くの社会人オリエンティアの方々の努力の上に成り立っていることを実感した。いつも以上に感謝し、これからも熱くぶつかり合うことが恩返しとなることだろう。
また、今年度もYouTube上でのライブ配信瀬川出田村一紗による実況付きで行われた。選手1人1人にスポットを当てた分かりやすい実況は、現役学生の動向を深く知らないOB,OG、ひいてはオリエンテーリング未経験者にも楽しめるものだった。
競技的な話をすると、やはりスプリント競技は有力選手の入れ替わりや台頭が激しい。1年生ながら選手権クラスに参加し好成績を修めた選手や1年間で大躍進を遂げる選手もいる一方、1つのミスが命取りになった選手も少なくなかった。MEでは関東学連が表彰台を総なめした上に、来年度の選手権枠獲得者数も大きく増加した。今大会を通してスプリント競技の身近さや手軽さ、高速ナビゲーションでのスリルや楽しさ、更には勝利の喜びや負けた時の悔しさなど、気付いたことや発見が1つでもあったならきっと強くなれる。君たちには無限の可能性が秘められているのだから。
また来年この地で。

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(Photo By @syuri_ppc)

 

 [Writer : dotare]