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2017年1月よりスタートしたオリエンテーリング関連のニュースサイトです。関東を拠点に、手の届く範囲でですが大会記事などをお届けしていきたいと思います。

#197_10年ぶりのあわらインカレ、スプリントで及川・桑原が優勝 ~インカレスプリント2024~

11月16日、福井県あわら市「トリムパークかなづ」で日本学生オリエンテーリング選手権スプリント部門(通称:インカレスプリント)が開催された。秋晴れの中でスプリントのコースを選手が走り抜けた。選手権ではMEクラスを及川悠太郎(筑波大学)、WEクラスを桑原唯歩(横浜国立大学)が制した。

 

貸切の公園

筆者は大会に参加するため、北陸新幹線も開業した芦原温泉駅から徒歩で会場のトリムパークかなづへ向かった。公園に到着すると入口には「本日貸切」の文字が。なんと本大会ではこの公園の全域を貸切ることができたようだ。

入口正面には大きい円型の建物が見える。これが今回の選手権待機所だ。そしてすぐそばにスタートとフィニッシュが見える。

 

選手権クラス

今回の選手権のコースの大きな目玉は会場スタート、会場フィニッシュというレイアウトだ。これはWOCを参考にしたという。さぞかし、1分前枠に立つ選手は緊張したことだろう。

フィニッシュレーン地面には「NEVER GIVE UP」などの文字が書かれていた。今年の運営陣はインカレ用に曲まで作ったといい、インカレへの情熱がうかがえる。

観戦ガイドでコースを確認すると大量の人工柵と人工藪(緑色フェンス)が使われているのが分かる。人工藪もWOCで使われていたアイデアだという。

プログラムには『「ルート判断」と「ルート実行」の負荷を、高い密度でかけ続けるコースとしました。 トップスピードでの走りを維持しながら、適切な量のマップコンタクトを行い、上記の負荷を処理し続けることが求められます。』と桃井コースプランナーが書いている。これを体現できる選手は一体誰なのか。選手権が始まった。

ラストコントロールからフィニッシュ誘導



女子選手権

WE



トップスタートは坂本選手(龍谷大学)。2番目スタートは中館選手(横浜国立大学)だ。中館選手は今年JWOCにも参加している選手である。最初にビジュアルに現れたのはこの中舘選手で、そのままトップゴールを果たした。しばらくすると、砂田選手(お茶の水女子大学)がこの記録をわずかに上回る走りでトップタイムを更新する。

中盤以降シード選手が出走。川瀬選手(奈良女子大学)はトップラップを多数取るが、中盤でのミスがあり、最終的に8位であった。山崎選手(筑波大学)はロングレッグをうまくこなして暫定1位を更新する走りを見せた。続くシードの樋口選手(筑波大学)、序盤は圧倒的なタイム。終盤失速するが、暫定2位の好走を見せる。小野塚選手(筑波大学)もノーシードながら入賞圏内の好記録でフィニッシュ。

ラストスタートの桑原選手(横浜国立大学)はロングレッグ後の中間コントロールを2位で通過し、優勝の可能性は2人に絞られた。後半も力強い走りを見せた桑原選手、圧倒的な走力で最終的には2位に30秒近い差をつけてフィニッシュ。自身最後のインカレスプリントで見事に優勝を果たした。

入賞ラインは今年も競り合う形となり、4位から8位までのタイム差は14秒、6位と7位の差は3秒であった。

桑原選手胴上げ



 

男子選手権

ME

竹下選手、稲邊選手、栗原選手と筑波大学の選手が序盤から上位を占める展開。稲邊選手が14:38で暫定1位となる。シード選手出走までの時間帯でこの3人に割って入れた選手は堀井選手(東京理科大学)のみであった。

最初のシード出走は及川選手(筑波大学)。ロングレッグ終了時点(16番)では稲邊選手にビハインドを取っていたが、後半怒涛の追い上げでトップタイムを更新(14:26)。

続いてのシード選手、古角選手は昨年入賞もしている選手。中間コントロールをトップで通過するものの、終盤でやや失速。及川選手から2秒差の2位でのフィニッシュとなった。この後、寺嶋選手も好走で4番手のフィニッシュ。さらには加藤選手が中間のタイムを大きく更新してフィニッシュへ。トップタイム更新かと思われていたが、22番コントロール不通過で失格となった。

続いて森選手、石原選手が連続してフィニッシュ。共に入賞圏内に滑り込んだ。

ラストスタート美濃部駿選手は中間で6位、入賞が期待されたが、加藤選手と同じ箇所のコントロール不通過で失格となった。

ここで及川選手の優勝と入賞者が確定した。

 

及川選手の胴上げ

 

結果

 

女子選手権

順位

氏名

記録

所属

1

桑原唯歩

0:13:35

横浜国立大学4

2

山崎葵

0:14:03

筑波大学3

3

樋口佳那

0:14:18

筑波大学4

4

小野塚智美

0:15:08

筑波大学2

5

砂田優萌子

0:15:09

お茶の水女子大学3

6

中舘美卯

0:15:14

横浜国立大学2

 

男子選手権

順位

氏名

記録

所属

1

及川悠太郎

0:14:26

筑波大学3

2

古角海志

0:14:28

東北大学3

3

稲邊拓哉

0:14:38

筑波大学4

4

寺嶋謙一郎

0:14:46

東京農業大学(オホーツク)3

4

石原潮人

0:14:46

京都大学4

6

森創之介

0:14:47

横浜国立大学3

接戦

女子選手権入賞者

 

男子選手権入賞者




 

インタビュー

ここからはインタビューをお届けする。

優勝した及川選手、桑原選手の2人にインタビューを行った。

聞き手は筆者(吉澤雄大)で形式はオンラインツールでのインタビューである。

 

及川選手

筆者:

インカレスプリントの目標はどんなものでしたか?

及川:

自分はスプリントしかなかった(※ロングは一般クラスに出走)というのもあり、スプリントの優勝というのを一番に掲げてやっていました。

 

筆者:

フォレストよりスプリントを重点的にやっていたという感じだったのですか?

及川:

ロングセレはアクシデントで落ちてしまったのですが、全日本のE権があったので10月の全日本ミドルロングをインカレロングのような立ち位置として練習をして、それが終わってからはスプリントを重点的にやっていました。

 

筆者:

スプリントという種目は得意と感じていましたか?

及川:

他の人よりは上手くできるのかなと。それはナビゲーションの部分もそうですが、走力を基準にしたときに他人より良い結果を出せるなと感じています。トップ選手、3000m9分前半とかもっと早い人に対しても、なんだかんだうまくやれているのかなという印象はありました。

 

筆者:

ちなみに3000mのタイムはどれくらいなのですか?

及川:

9分半くらいですね。ここ半年くらいで伸ばしました。

 

 

筆者:

昨年の結果を見るとそこまで明るくないという印象でしたが、今年5月の秋田大会あたりからは安定して結果を出しているように思えます。昨年から飛躍したという印象ですが、要因はありますか?

及川;

(前述の通り)フィジカルを強化したのが一つです。最も大きいのは、かとけん(加藤賢斗、筑波大2年)かなと思っています。昨年1年生で3位取って負けられないなと。そして筑波でスプリントをやる機会が増えて、根本さんや村田さんなどと週に1度クオリティの良いスプリントをできたのも大きいと思います。難易度も高いのでインカレのような難しいコースでも、びっくりしないで落ち着いて走れるようになりました。

 

筆者:

インカレの対策としてやったことは?

及川:

予想コースとテレインの分析を自分だけでなく、部全体で行っていました。

個人的には2週間前から平日は毎日スプリントをして、自分のできることを徹底的にやるようにしました。

 

筆者:

当日の話に移ります。会場スタートは緊張しましたか?

及川:

緊張はあまりしないタイプなので、緊張はなかったです。でも、高まりみたいなのはありましたね。ワクワクする感じがいつものレースに比べてありました。

 

筆者:

地図を見た瞬間、どんな印象でしたか?

及川:

柵が思ったより少ないなと。テニスコートやグラウンドにもっと置くかなと思っていました。あとは少しごちゃついているかなと(レッグ線など)、でもこれは予想通りでした。

 

筆者:

前半は順調に走れた感じでしたか?

及川;

ルート的には微妙でしたが、大きなミスはなく回れていたかなという印象です。

 

筆者:

ロングレッグはオープンを走るルートを選んでいましたが、すぐにルート見えましたか?

及川:

すぐに見えたわけではないです。ロングレッグ前のショートレッグで頑張って読んでいたのですが、15についた段階では柵をクネクネするルートが見えていましたが、よく見るとちらっとオープンが2か所空いているのが見えたのでこれしかないなと。ただ、アタックで垣根を右から巻いてしまいミスタイムを計上しました。

 

筆者:

この時点で7位でしたがここから大きく追い上げています。どう立ち回りましたか?

及川:

18→19が他の選手と比べたときに勝負を分けたレッグだと思っています。このレッグで最短のルートは見えていましたが一番右の実行が簡単なルートを選んでこの間に最後まで読みきってしまおうと。人工藪がいやらしい置き方をされていたので、18→19でナビゲーション負荷が高い動きをすると苦しそうだなと思っていました。

 

筆者:

フィニッシュした瞬間は?

及川:

実況でトップタイム更新と言っていたので、トップタイム更新できたんだなと。ただ、シード選手で一番最初なので、まあそれはそうかなという感じでした。走りは微妙なところもあったのでこれからどうなるかなと思っていました。

 

筆者:

優勝が確定してどんな思いでしたか?

及川:

嬉しい気持ちはあったんですけど、一緒にやってきたかとけんがDISQしていてすっきりしないところはありました。ただ、胴上げされたときはなんだかんだ嬉しかったです。

 

筆者:

2位と2秒差というのは?

及川:

助かったなと。このスポーツはたらればとかは通じないなと思っていて、2秒差で負けたら完全に負けたと思うんですが、いざ2秒差で勝つと運が良かったんだなとなりました。逆に信じられない、呑み込めないという感じでした。

 

筆者:

コースについてコメントお願いします。

及川:

コースはかなりテンポが良い感じで、自分としては得意なコースなのかなと思いましたし、細かくテンポよくつなぎながらも要所にルートチョイスがあり、難しいコースだったのかなと思います。まとめきるのが大変だなと。こういうコースだとどこか綻ぶところが出てくるのがスプリントなので最後まで集中して走るというのは難しかったなと思います。

 

筆者:

これからについてコメントお願いします。

及川:

まだ3年目で実力足りない部分もあるので、これからもっと努力して来年も優勝出来たらと思っています。また、インカレだけでなく全日本でも活躍したいと思っています。

 

 

桑原選手



 

筆者:

今シーズンはWOCやユニバーに出ていますが、そこで得たものはどんなものでしたか?

桑原.

どのレースでも緊張による焦りから大きなミスをしてしまったので、重要なレースでどのように冷静さを保つか、どうすれば自分の実力を最大限に発揮できるのかについて考えるきっかけになりました。しかし、ミスの反省はあるものの、レース中にスピードを出しながら先読みをするという理想の走りができた区間があったところは自信につながったと思います。

海外選手の走りを見て、少しの減速でも差が出てしまうということ、そしてトップ選手は少しの無駄な動きもなく走っているということを実感し、スプリントにおいていかに減速区間を減らすかということが自分の課題となりました。

これらの意識がインカレでの走りにつながっていったと思います。

 

筆者:

インカレの立ち位置や目標はどんなものでしたか?

桑原:

WOC、ユニバーが終わるまではそれに集中して、夏の大学院試験が終わってからはインカレに焦点を当ててきました。最後のインカレスプリントであり、しかも自分がお世話になった(※)桃井さんがコースプランナーということで絶対に優勝したいという思いでやっていきました。

 

※桑原選手はKOLCではかつて桃井一門に所属していました。2022年から2023年にかけて活動があり、桃井さんからスプリントの考え方やコツを教えてもらうことが多くあったということです。

 

筆者:

インカレ直前はどんな対策をしましたか?

桑原:

予想コースの作成なども行いましたが、レース中どういった走りをするかという点に注力しました。かつて桃井さんから教えてもらったアドバイスを思い返して、紙に書いて、レース中意識することを決めました。

 

筆者:

当日のレースの話に移ります。会場スタートでしたが、緊張しましたか?

桑原:

緊張するかなと思っていたのですが、WOCの反省もあり、スタート枠に入ってからスタートするまでのシミュレーションをしていたので、意外と1分前枠でも緊張はなかったです。また、ラストスタートで他の選手がゴールしている時間帯だったので、注目がそちらに向いていたというのも気が楽だったと思います。

 

筆者:

前半部について振り返ってみてください

桑原:

△→1から複雑なレッグが来ると予想していました。意外と入りは簡単で驚きましたがスムーズに入れました。4→5はベストルートが読めなくて、右に行って長いルートだなと思いながら走りました。5から8の池周りは対策の甲斐もあり、その後11までは順調でした。

 

筆者:

11→12のロングレッグはどのように走りましたか?

桑原:

レッグ線方向に脱出してテニスコートを出たところで一旦止まって地図を読みましたが、オープンの柵の隙間が空いているところは読めてなくて、そのまま駐車場に突っ込んだという感じでした。遅いのかなと思いながらも切り替えて頑張って走りました。

 

筆者:

後半はいかがでしたか?

桑原:

15→16ではオープンを走るルートを選択しましたが、オープンを走っている途中で人工藪が読み切れてないことに気づき、18番を経由するルートになりました。またルートをミスったという危機感でここからはスピードを上げて走りました。

 

筆者:

結構ミスをしているように聞こえましたが、ミス率は一番低いです。そのあたりはいかがでしょう?

桑原:

ルートチョイスはかなり間違えたと思うのですが、実行面では一度もミスっていないです。しっかり地図を読むことに集中していました。ほとんど両手で地図を持って走っていました。

 

筆者:

コースの感想をお願いします

桑原:

ちゃんと地図を読めてないと早く走れないコースでした。ロングレッグの正解ルートを見抜けなかったのは悔しいですね。こういう難しいコースでも冷静に走れたのはWOCやユニバーの経験を活かせたのかなと思います。最後まで集中し続けられて、頭を使ったけど気持ち良い疲れだったなと。

 

筆者:

優勝した瞬間の気持ちは?

桑原:

最初は走り終わって放心状態で、トップタイム更新と言われても呆然としていたのですが、KOLCの人が一斉に駆け寄ってきてくれて、やっと優勝したんだという実感が湧いて嬉しくなりました。また、桃井さんが実況ですぐ近くに来てくれたのですが、オリエンテーリングのことを色々教えてくれた桃井さんのコースで優勝できたと思うと感無量でした。

 

筆者:

桑原選手は全日本スプリント、日本代表選考会、インカレスプリントとスプリントでは重要大会で今年に入って学生で負けなしです。強さの秘訣は?

桑原:

まずは走力を強化したことです。週に50km以上走るのを目標に取り組んでおり、自分で計画を立ててジョグだけでなくスピード練習を定期的に行っています。また、大学周りに坂が多いので、常に登坂力を鍛えられているのも秘訣だと思います。

重要大会の前はスプリントをする頻度を増やすことで感覚を身につけたのが効果的でした。スプリントの技術や走り方に関して積極的に他の人に聞いたり、自分のミスや減速の原因を分析したりと、スプリントと向き合う時間を増やしたことが結果につながったと思っています。

 

筆者:

今後の目標について教えてください。

桑原:

まずは次の春インカレでミドルもリレーも優勝することが目標です。その後は再来年のスプリントWOCで決勝に進出することが目標です。

 

筆者:

最後に一言あればお願いします。

桑原:

世界で戦える強い選手になれるよう、これからも練習を積み重ねていきたいと思います。

 

 

インタビューへのご協力ありがとうございました。

 

(編集後記)

今年もスプリントチャンプへのインタビューを行いました。

選手のやってきたことや本番でのレース内容をたくさん聞けて私自身も参考になりました。

 

以下は個人的なスプリントの感想です。

まずは前評判通り筑波大の選手が強かったなという印象です。つくばにある多くのテレインを使っての高頻度のスプリントトレーニングの効果はやはり大きいようです。また、筑波大の予想地図の精度は非常に高かったという話も耳にしました。

筑波大の取り組みに関しては及川選手や稲邊選手、竹下選手(スプリントME7位)がadvent calendar(表・裏)に記事を書いてくれています。参照されると良いでしょう。

 

また、今回の結果を見ると3・4年生が強かったという感想を抱きました。コロナ禍で人数が少ない世代が卒業し、層が厚くなっているのを感じます。男子はtopから18位までが1分以内で、かなりの混戦でした。

 

3月には春インカレが日光に行われます。また、次の秋インカレは4年ぶりに矢板で行われます。全日本ミドルロングも那須塩原と来年は栃木が熱そうです。