4部門で年間の優秀大会を投票により決定し表彰する、OK-Infoの年末企画「OKアウォード2023」の結果を発表します!
投票結果の上位大会が素晴らしかったのはもちろんですが、様々な大会が票を集めております。本記事を読んで、多くの素晴らしい大会の思い出とともに、2023年のオリエンテーリングを振り返っていただければ幸いです。
※結果発表用に投票結果をまとめた図については、自由にご利用ください。特に、SNS等で投票結果をシェアいただくのは大歓迎です。
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2023年10月14日(土)、茨城県笠間市の笠間芸術の森公園でインカレスプリントが行われた。男子選手権は橋本遼佑(神戸市立工業高等専門学校4年)が制した。女子選手権は柴崎愛有と羽鳥汐音(ともに新潟大学4年)が同タイムでの優勝となった。
絶好の晴天
今年の秋インカレは関東での開催となったが、いつもの栃木ではなく茨城での開催である。
笠間芸術の森公園といえば何度かパークOが開かれてきたテレインである。オープンが占める面積が多く、パークO要素が強めとなるのではないかと予想されていたかもしれない。
会場も芝生であり、秋晴れの中でスプリント日和となった。会場では選手紹介と意気込みのスライド、隔離所の様子、プランナーの大石氏によるコース紹介などが行われた。
パフォーマンス
選手権スタート前には笠間市のチアリーディング団体によるパフォーマンスが行われた。オリエンテーリング会場ではなかなか見かけない光景だが、笠間市の協力のもとで実現した。力強く華麗なパフォーマンスで参加者を楽しませた。
接戦となったWE
女子選手権からスタート。最初にビジュアルに姿を現したのは2番目スタートの福田選手(国際基督教大)。15:19のタイムでそのままトップゴールとなった。
続いて会場を沸かせたのは1年生の中舘選手(横浜国立大)。第一中間、第二中間と記録を大きく更新するタイムで通過。最終記録はDISQとなったが、14分台でのフィニッシュで会場の観客を大きく驚かせた。
その後、福田選手の記録を抜く選手はしばらく現れなかったが、木口選手(慶應義塾大)が福田選手より1分ほど速いタイムでビジュアルを通過した。後半はやや苦戦したようだが14:29でフィニッシュして暫定1位に。続いてシードの山崎選手が14:31と木口選手からタイム上で遅れること2秒でフィニッシュし、暫定2位となる。
大きく戦況を動かしたのは柴崎選手(新潟大)の走り。第一中間、第二中間でトップタイムを更新して会場へ。後半のレッグも大きなミスなくまとめ、フィニッシュ。14:06のタイムで暫定1位に躍り出る。続いて、松尾選手(神戸大)が柴崎選手とは9秒差の暫定2位、落合選手(京都大)が暫定3位のタイムでフィニッシュした。この時点で1位から5位までの差は25秒ですでに入賞争いは混沌としてきた。
ここで会場を大きく沸かせたのは羽鳥選手(新潟大)。ノーシードながらビジュアルを暫定4位のタイムで通過。さらに終盤のロングレッグをトップラップでこなし、猛烈な追い上げでフィニッシュへ。会場では記録の読み取りに視線が集まる。読み取るとなんと14:06のタイムで同率1位! 新潟大学同期の柴崎選手と共に暫定1位となった。
さらに後ろからはラストスタートの樋口選手(筑波大)が好走を見せる。ビジュアルを2位のタイムで通過。ビジュアル後のロングレッグでトップラップを出し、後半の回しも順調にこなし、13分台でのフィニッシュ! これは優勝か?と思われたが、途中コントロールの不通過により無念の失格となった。15番コントロールのパンチを忘れたようである。
こうして柴崎選手と羽鳥選手のW優勝が決まった。インカレスプリントで優勝が同タイムのとなるのは初めての出来事である。
12分台のタイムが出たME
続いて男子選手権。最初のフィニッシュは波多野選手(大阪大)で14:42、最終順位は16位のタイム。多くの選手が苦戦する中で今年のJWOC日本代表の石原選手(京都大)が記録を更新して暫定1位に。谷口選手(筑波大)、早川選手(立命館大)も好走でこれに次ぐタイムを記録。
一気に戦況を動かしたのは古角選手(東北大)。ビジュアルをトップのタイムで通過して会場を沸かせる。14:03とウイニングタイムに近いタイムでフィニッシュし、暫定1位に。
直後にフィニッシュした山口選手(東京大)はタイム的にはこれを上回ったが、残念ながらコントロール不通過のDISQに。この後、根本選手(東京理科大)が14:11の好タイムで暫定2位につける。
いよいよシード選手が出走。上妻選手(横浜国立大)は前半かなり苦戦しながらも、ビジュアル後のロングレッグでトップラップを出すなど後半は赤ラップを量産するシード選手らしい走りで大きく巻き上げる。古角選手を上回る14:00のタイムで暫定1位を更新した。さらに上妻選手の1分後出走の加藤選手(筑波大)はなんと未経験の1年生ながらビジュアルをトップのタイムで通過、そのままトップを維持してフィニッシュへ。13:46とここで13分台のタイムにのせてきた。会場は驚きの声に包まれた。
いよいよ選手のスタートも終盤に。昨年のインカレスプリントで入賞した寺嶋選手(東京農業大オホーツク)が今年も好走を見せる。ビジュアルでトップタイムを大きく更新。これまでの選手より20秒ほど速いタイムである。この差をキープしたままフィニッシュへ。13:24のタイムで暫定1位。
寺嶋選手はウイニングタイムより30秒以上速いタイムでこれを上回るのはなかなか厳しいのでは…と思われる中、ビジュアルを2位で通過したのは橋本選手(神戸市立工業高等専門学校)である。差は10秒ほどでまだまだ逆転の可能性がありそうといったところである。果たして逆転はあるのかと思っていると、最後のロングレッグの終点である20番コントロール(会場のアリーナから視認可能)に驚異的なタイムで現れる。なんと寺嶋選手に逆に20秒ほどの差をつけていた。最後もフィニッシュまで驚異的な走力を見せつけ、12:57のタイムでトップを更新した。競技責任者の太田氏も驚きのタイムをたたき出した。
ラストスタートの美濃部選手(横浜市立大)もこのタイムでは現れず、橋本選手の優勝が確定した。神戸大の選手による橋本選手の胴上げが会場で行われた。
インカレスプリント選手権入賞者一覧
ME
1位 橋本遼佑(神戸市立工業高等専門学校4)
2位 寺嶋謙一郎(東京農業大学(オホーツク)2)
3位 加藤賢斗(筑波大学1)
4位 上妻慶太(横浜国立大学3)
5位 古角海志(東北大学2)
6位 根本浩平(東京理科大学3)
WE
1位 柴崎愛有(新潟大学4)
1位 羽鳥汐音(新潟大学4)
3位 松尾晴乃(神戸大学3)
4位 落合英那(京都大学2)
5位 木口瑞穂(慶應義塾大学3)
6位 山崎葵(筑波大学2)
インタビュー
今回OK-infoではインカレスプリント優勝者にインタビューを実施した。
インタビュアーは筆者(吉澤雄大・本大会スプリント部門イベントアドバイザー)である。
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神戸市立工業高等専門学校4年 橋本遼佑選手
筆者:インカレはどんな目標を掲げて挑みましたか?
橋本:二冠でした。スプリントはもちろん力を入れていましたが、ロングもうまくいけば優勝があるのではないかと思っていました。
筆者:上位を争うことになると思っていた選手をあげてください。
橋本;寺嶋選手、森選手、美濃部選手、ロングでは石原選手を想定していました。
筆者:大会前の調子はどうでしたか?
橋本:仕上がっていました。大会2日前に気分でやった公園での読図走でも抑え目で走って3:40/kmくらい出ていて調子が良いと感じていました。
筆者:どんな対策をしましたか?
橋本:予想コースの作成とラントレ、読図走を中心にやってました。色々な人に予想コースを作ってもらっていました。松本萌恵さん、北見さん、伊藤樹さんなんかに予想コース組んでもらっていました。自分で組むコースだけではどうしても何かしらの傾向が出てしまうので、いろんな人の組んだコースを見るようにしていました。
コース予想としては、特に前半はかなり本番に近いものを予想できていました。あとはビジュアルからのロングレッグでもオープンの段々になっている場所を通るというのはあるだろうなと思っていました。あとは人工柵のあるロングレッグのルートプランの際に最近のインカレスプリントは「大外を行くのが早い」というパターンが連続していたので今年は内側をくねくねと通るのが早いように組むのでは?なんてことも考えていました。
筆者:レースはどうでしたか?
橋本:
(ビジュアルまでについて)3→4で通れる水系(旧図では通れない水系だった)を巻いてしまったのと、8→9の桟橋のところで細かいミスをしました。最初は落ち着いて入ろうと思ったのでそんなにミスをしたという感覚はなかったですが、結果的には前半は2位で折り返していたことになります。3→4のミスはレースが終わってから気づきました。
(ビジュアル後について)
ビジュアルはずっと落ち着いて地図を読むようにしていました。西エリアのキャノピーのところはキャノピーがあるとは事前に想定しておらず驚きましたが、冷静に対処することができました。前半抑え目に走っていたのもあり、足がまだ残っていました。19→20のロングレッグはキャノピーを走った後道路を爆走しました。もう走るしかないと思っていて、見えたルートが大負けルートではないなと判断し、見えたルートをすぐに選びました。(ただし駐車場を通るルートも見えたのですが遅いだろうと思っていました。)このレッグは1回通っているところを再度通ることもあり、何も見ずに20まで走りました。最後のインカレスプリントでこれは走るしかないという気持ちだけで押していました。
レース全体の出来栄えとしては100点だったと思います。
筆者:ゴールした瞬間の心境は?
橋本:もっと良いルートで走っている人もいるかと思っていて結果がどうかは内心分からなかったですが、読み込んでみて暫定1位と言われて驚きました。
筆者:スプリント優勝していかがでしたか?
橋本:2年前の秋インカレの頃からスプリントの優勝を目指していたのですが、昨年は果たせなかった優勝を今年は果たせて嬉しかったです。一方でロングでは悔しい結果になったので、春のミドルに向けて頑張ります。
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新潟大学4年 羽鳥汐音選手
筆者:インカレスプリントはどんな目標を掲げて挑みましたか?
羽鳥:スプリント入賞するというのは目標としてありました。
筆者:大会前はどんな調子でしたか?
羽鳥:トレはずっと継続していたのですが、同期の柴崎さんとかに聞きながら一週間前からのトレ強度を調整していました。対策も今までのスプリントの中では一番やっていたので気持ち的にも走れそう、万全といった感じでした。
筆者;インカレスプリントの対策としてどんなことをしましたか?
羽鳥:地図を頭にがっつり入れたい、現地との照合をしたいということでGoogle mapのストリートビューは細かく見ていました。地図読みしながら、ルートの(現地の実際の)様子もストリートビューで確認していました。あとは地図のどこに何があるのかを大まかに頭に入れるために地図の模写をしていました。手を動かすと覚えるので。
筆者:レースはどうでしたか?
羽鳥:
(ビジュアルまで)5→6→7で細かいミスをしました。橋が思ったより長くてちょっと止まってしまったり、6→7は一度通り過ぎたりしました。でも、全体的には順調でした。6→7で前の出走者に追いついたのもあり、走力的に悪くないレースをしているのかなという感覚で、落ち着いてレースできていました。スプリントの選手権が初めてなのもあり、ビジュアルは焦るだろうと思っていましたが、走る側になると意外と落ち着いて地図を読めました。
(ビジュアル後)ビジュアルからのロングレッグはキャノピーを通るルートを選びました。16→17は先読みをあまりできていなかったのですが、パッと見えたルートを行くと決めていました。16までで通ってきたキャノピーのルートがぱっと見えたので、ちょっと通りにくいかもしれないけど、これを選びました。駐車場通るルートは見えてなかったのですが、見えなくてラッキーでした。
筆者:ラストコントロールからゴールで1秒詰めて同タイムでの優勝でしたがそこに関してはどうですか?
羽鳥:ちょっとでも足を止めていたらと思うとこわいですね。逆にちょっとでも足を進められていたら単独優勝だったと思うと悔しい気持ちもありますね。
筆者:ゴールした瞬間は?
羽鳥:優勝タイムになるタイムで帰ってこれているとは思っていなかったですね。ラストコントロールのところで必死に応援していた新潟大学の部員が見えて、そこでもう一歩出し切ったという感じで、もしその応援がなければ負けていたかもしれないです。
筆者:優勝が確定しての気持ちはいかがでしたか?
羽鳥:びっくりで本当に実感がなかったです。色んな気持ちがあって、驚きもあれば、信じられない、嬉しい、1秒差で勝てたかもしれないと思うと悔しいとかが混ざってましたね。でも、嬉しいというのが一番大きかったと思います。
表彰式の舞台というのは自分からすると名高い選手が並んでいて、遠いステージという印象があったのですが、まさかそこに自分が立てるとは、しかも優勝者として立てるというのはという思いでした。
筆者:同着の選手が新大同期というのはどうでしたか?
羽鳥:勝ちたいと思っていた相手だったからこそ悔しさもあるのかなと。負けたわけじゃないけど…という複雑な感情でした。
筆者:本大会の競技面以外での感想何かありますか?
羽鳥;雰囲気で印象あるのはビジュアルの応援が近くて、新大がちょうど10番コントロールの近くに陣取って応援してくれたので、盛り上がりを感じました。
筆者:今後について教えてください。
羽鳥:自分たち新大女子は春インカレリレーでの優勝を目指しています。スプリントでは良い成績残せたのですが、ロングではやらかしたのでそこは反省して切り替えて。秋インカレでは個人個人が対策してきたのですが、春インカレでは3人でより協力して対策していきたいなと思っています。そして、春も優勝して表彰台にのぼりたいです。
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新潟大学 柴崎愛有選手
筆者:インカレスプリントはどんな目標を掲げて挑みましたか?
柴崎:優勝したいと思っていました。でも正直うまくいって3位くらいかなと思っていました。樋口さんと桑原さんに勝てる自信はなかったです。
筆者:大会前の調子は良かったですか?
柴崎:7月に貧血になって薬飲んで対処していたら9月くらいに治ってきて、そこからフォレストの調子は良かったです。でも、スプリントの調子が上がってこなくて。筑波大大会や根本一門スプリントで1レッグ3分とかのミスをして技術的にやばいなと。先輩後輩に市街地スプリントのコース組んでもらって、サムリーディングとかのスプリントの基本的な手続きは練習しました。あとは1週間前に京京立大会に行ったのですが、ふくらはぎ痛いなと思っていて木曜くらいに痛みが引いて、何とか痛みのない状態では走れました。
筆者:どんな対策をしましたか?
柴崎:youtubeのお散歩動画を見てテレイン全体を歩いた気になったり、他の人の組んでくれた予想コースを読んで動画と照らし合わせて、こういう景色なのかというのを確認していました。
筆者:レースはどうでしたか?
柴崎:概ね順調でしたが前半では6→7で藪の外側行ってしまったのが痛かったです。ビジュアルは転んでしまって、あらぬ方向に下ってしまって、めちゃめちゃ焦っていました。前半の9までで足を結構使ってしまっていて疲労があったのも影響してるかもしれません。後半はルートは読めてるけど、前半で飛ばしすぎて足が全然動かなくてきついという感じでしたね。最後のロングレッグは疲れていて全然考えられなくて、見えたルートにすぐに飛びついたんですけど、頑張って走りました。
筆者:ゴールした瞬間の心境は?
柴崎:ウイニングが14:30だったけど、距離とupから考えると14分切れるのでは?と思って走っていました。でも時計を見ると14分切れていなくてどうだろうと…。
筆者:このあと羽鳥選手が同着1位となりましたが、どんな心境でしたか?
柴崎;(羽鳥選手が走っている間)ずっと時計というか秒針を気にしてみていました。負けるんじゃないかと思って。最初は「同着優勝でやったー」というよりほっとしました。負けなくて良かったという感じでした。この時間はスタート前より緊張していました。
筆者:優勝した感想を教えてください。
柴崎:まずは今年も去年も(北信越の)セレに落ちていたので出させてくれてありがとうという気持ちでした。また、おととしは選手権に出て失格になっていたのでちゃんとインカレで記録がついて良かったです。
筆者:これから(特にスプリント)について教えてください。
柴崎;全日本スプリント入賞とスプリントランキングでのユニバー代表を狙ってるので、まだまだスプリント頑張りたいと思います。
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(インタビューご協力いただいた皆さんありがとうございました!)
編集後記
今回のインカレスプリントは女子の接戦の様相が例年以上で、見ている側としてもずっとハラハラしていました。男子に関しては寺嶋選手が飛びぬけたあとの橋本選手の圧巻の走りに魅了されました。
インタビューをしていて感じたことは優勝した3人はやはりテレインへの対策をしっかりしているなと思ったことです。特に橋本選手のテレイン分析、理解の解像度は非常に高く、コース予想などの対話ではEAとして誰よりもテレイン知っているはずの自分も驚いてしまうほどでした。「インカレスプリントに懸けていた」という彼の言葉の説得力はすごかったです。
ルートの選択という部分では3人ともに、ロングレッグのルート検討に時間を使いすぎていない、見えたルートが負けルートでなさそうであればそれを即座に選択して、そしてしっかりと走ることで(タイム的な)勝ちルートとしているのが分かりました。
また、選手が負けず嫌いなのがとても伝わってきました。
来年1月には全日本スプリントがありますし、来年はWOCもスプリント種目です。
学生選手の活躍にも期待したいと思っています。
(写真は斎藤様、北川様のものを使用させて頂きました。)
[writer:Yoshi2]
今年もOK-Info年末企画「OKアウォード2023」を開催します!
OKアウォードは、4部門で年間の優秀大会を投票により選出し、表彰するイベントです。2023年のオリエンテーリングシーンを振り返る場、大会の良さを共有する場となれば幸いです。
投票締切は12/4(月)です!
結果は12/15(金)のオリエンティアナイトにて上位を発表します!
また、全集計結果は年内にOK-Infoにて公開します。
投票は以下の画像をクリックしてどうぞ!
・前半 ・後半で2部門ずつに分かれています
・自分が運営した大会には投票できませんのでご注意ください
▼投票フォーム【前半】はこちら
https://forms.gle/b9Bn7d56xZvdYEYu5
▼投票フォーム【後半】はこちら
https://forms.gle/AoYXouQtHGeqUYak8
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2023年9月23日(土)、第43回筑波大大会が茨城県つくば市の筑波大学筑波キャンパスで開催された。500名以上の参加者がスプリントを楽しんだ。
難解な立体構造
筑波大学つくばキャンパスは広大な敷地を持つ。単一のキャンパスとしては日本最大級の面積を誇る。縦4km×横1kmといったらその大きさがお分かりになるだろうか。
「大学なのか、森なのか。」というキャッチコピーが使われるくらいに森が多く、門もないような開放的なキャンパスである。(ちなみに緑あふれるキャンパスなので、地図と現地の差を極力なくそうと大会1週間前からテレイン内全域で草刈りを行っていたという。)
オリエンテーリングの観点で見るとこのキャンパスの最大の特徴は立体構造の多さにある。ペデストリアンデッキがたくさんあるのだ。
前回このテレインが大会で使われたのは2015年のこと。筑波大オリエンテーリング愛好会が体育会になる時期とも重なる。当時もその立体構造を多くの参加者が楽しんだ。
それから部員も大きく増え、このキャンパスでのスプリントは筑波大生のスプリント能力向上に大きく貢献してきたと言えるだろう。
運営者に筑波大キャンパスを使うことにした経緯について尋ねたところ、「コロナ禍においては学外者の立ち入りが制限されていたが、ようやく今年その制限が緩和されたため、再び筑波大学を公開するにはいいタイミングだと感じた」「前回筑波大学筑波キャンパスで大会開催をしたのが8年前だったので、久しぶりにやろう!という気持ちがあった」と答えてくれた。
午前は難易度の高いエリアを使ったスプリントが提供された。
立体構造を存分に活かしたコースとなっている。その一方で15番以降などは使うエリアの特徴や難易度が変化し、競技者に求める課題も変わるようなコースとなっている。
やはり難しいのか2階部分にあるコントロール位置で1階を探している人、その逆も筆者は見かけた。
新しい図式に更新されたことで、相対的に立体構造が分かりやすくなっているように感じた。
ラップセンターのレッグ分析を見ると、ML1クラスでは1→2、9→10、10→11の順に難易度が高い。1→2はスタートして最初に登場する立体交差でこれを読み切れているか、9→10は1階部分に下りないといけないことを理解しているか、10→11も長く続く立体構造部分をルートにうまく組み込めているかでタイム差が出たと思われる。
第43回筑波大大会 コース解説 (japan-o-entry.com)
男子は橘選手(ES関東C)、尾崎選手(トータス)がそれぞれML1とML2を制した。WLは森下遥選手(千葉大学)が優勝した。桐嶺会クラスの小牧選手と宮本和奏選手はさすが、これらの選手を超えるタイムを出してきた。
ノックアウトスプリントリレー爆誕
午後はスプリントリレー競技である。しかし、よく見ると意味深なことにスプリントリレー(ノックアウト方式)、しかも予選決勝方式と要項には書かれている。これはいったい?
<ルール>
簡単に言うとスプリントリレーにノックアウト要素(自分に最も適した地図を選択する)を加えたものといえるだろう。
詳細を記載すると以下のようなものである。
【予選】
予選のルールとしては3コースが用意されており、それぞれコースには特徴がある。conpi、hard、longlegと書かれており、どの走順の人に振るのか、適正な人は誰なのかなどを検討する必要がある。
【決勝】
全ての選手がそれぞれコースを(30秒間で決めて)選ぶ。チームのメンバーが同じコースを走る可能性もある。
なお、予選では10チームが勝ち残る。桐峯会は3チームまで、女子チームが3チーム入るように考慮される。
午前ほどの難易度ではないものの、よりスピードを求められる。僅かなミスが決勝進出できるかを決める。
予選では、ウェーブ1の「ほぼ三十路OLC」チームの橘選手、「結城家とソウルメイト」結城選手が順にゴール、その次にゴールしたのはなんとウェーブ2で3分後スタートの「桐嶺会43期♂」3走小牧選手。やはり慣れている筑波大学OBは強い。続いて「GROK」大橋選手といった順に。
女子チームからは稲毛選手の入る「結城家とソウルメイト」、砂田選手の入る「かぼちゃーず」、大野選手の入る「AsJYOC U-16」の3チームが予選を通過した。
個人(3枚から1枚だけを選択)では本庄選手が優勝、女子では柴崎選手(新潟大)がlong legパターン5位の快走を見せた。
いよいよ決勝。
地図選択では段ボール内でサインをすることで他の競技者から見えないように工夫されていた。
1走の戦況は大方の予想通り、「桐嶺会43期♂」根本選手がリードする展開、「結城家とソウルメイト」尾崎選手、「いくぞ!さんみいったい!」上妻選手が続く。
2走では「桐嶺会43期♂」谷野選手がバテている様子ながら1位をキープ、「いくぞ!さんみいったい!」森選手が2位に押し上げる、「チームスキーO」道坂選手が順位を上げて3位に浮上。「稀によく見る人たち」宮本樹選手が順位を3つ上げて5位に。「結城家とソウルメイト」が女子の稲毛選手を起用しながら4位で耐えるといったところ。
いよいよ3走。やはり「桐嶺会43期♂」は強く、小牧選手が盤石の走りで優勝。「結城家とソウルメイト」結城選手はパターン2位のタイムで好走したが優勝には20秒及ばず。3位争いは僅差となり、最後の陸上トラック(ラスポ→ゴール)での争い。「稀によく見る人たち」新田見選手が「いくぞ!さんみいったい!」千葉選手を9秒差で振り切った。「GROK」が5位、「チームスキーO」は6位という結果となった。3走ビジュアル時点では、入賞争いの3チームがほぼ同時に現れたが全員パターンが違うようで別の方向に脱出していったのが非常に面白く、観客が盛り上がっていた。また、実況の他にはteamsを使った定点でのカメラ中継も行われていた。
なお、パターンの選択はA:B:Cが8:16:6で最短距離はCとのことである。
今回ノックアウトスプリントリレーという斬新なアイデアが生まれたが、参考にしたのはIOLD大会のリレーであったという。何か新しいことをやりたいと思ってリレーにノックアウト要素が加えられたという。筑波大生の企画力に今年も驚かされた。
コースプランナーの樋口氏に話を伺った。
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Q.
3日前にコースが完成したということですが、コースへの拘りや思いなど教えてください
A.
一度印刷直前段階になり村田さんにOCADの機能について質問したときに初めてコースを見てもらいました。その際に要約すると、調査依頼が発生したり、運営で大変になるポイントがあるとアドバイスを受けたことがコースを全部変更することになった大きな理由です。そこまでに競責・EAチェックや複数回の試走もしてはいたのですが、そこでは指摘されなかった角度からの意見に自分でもはっとさせられました。修正前は、テレインを走り慣れた桐嶺会員を楽しませるコースにしなければいけない、待望されたテレインなだけに期待度も高いということから難しいコースを作成しなければならないという意識が先行してしまっていました。そのため、簡単に言えば過激なコースを組んでしまいました笑。どんなコースがオリエンティアは楽しいと思うのか、筑波大学生ではない人にとって難易度が高くなりすぎないか、リレーでは演出も大切にしたいので観戦者が楽しいのはどんなのだろうか等を意識してもう一度納得のできるもの(=コントロールされたコース)を作りたいと思いました。大会の感想はコースの良し悪しに大きく左右されると思うのでスケジュール的に苦しくなってもこの修正はしなくてはならないという責任が自分の中で強くありました。
この想いからコース解説に『はじめに』のページを設けました。
当日は難しかった!でも楽しかった!という一番聞きたかった感想が多く届いてきたので本当に嬉しかったです。難しすぎてスプリントとは言えないなどマイナスな感想ばっかりというケースも修正前ならありえたと思います。午後競技では「演出の筑波」を受け継いだ、競技者も観戦者も楽しめる、盛り上がるリレー競技になったと思います。予選は3つの特徴のコースを組む・決勝は真剣勝負でシビアな戦いというコンセプトを先に決めていたので、それをどのように観戦者も楽しめる形で実現させるかは考えるのは大変でしたがこだわった分、それが上手くはまってよかったです。
大会アンケートやSNSで沢山の方に良い大会だったと言ってもらえて頑張ってよかったなと思えました。「コースを走り切ってくれてありがとうございます」
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続いて実行委員長の小野氏に話を伺った。
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Q.
大会への思い、感想教えてください。
A.
大会そのものとしては成功だったと思いますが、実行委員長としてその責務を果たすことは中々難しかったというのが率直な感想です。
自分自身、実行委員長がどういった役割や仕事を持っているのかを最後まで掴み切れないまま大会が終わってしまったという感覚がありました。中々実行委員長としての責務を果たせない中で、同期やその他の部員という皆の支えがあってこそ成功した大会だったと思います。感謝してもしきれません。
また、大会全体として細かい部分の改善点が散見されたので、次回以降の筑波大大会に必ず活かしたいと思います。伝統の筑波大大会を今後もよろしくお願いします!
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非常に「凝った」大会になっていると同時に運営者が楽しくやっているのが印象的であった。次回大会はどんなアイデアで参加者を楽しませてくれるだろうか、今から楽しみである。
大会HP:
第43回筑波大大会 | Japan-O-entrY
Lap center:
第43回筑波大大会 午前競技 (mulka2.com)
[writer:yoshi2]