11月7日、宮城県宮城郡利府町の『グランディ・21 LOVE』を舞台に第44回東北大学オリエンテーリング大会Day2が開催された。Day2は長岡凌生(青葉会2016)、小林祐子(青葉会2017)が制し、2日間の合計タイムでも優勝となった。
Day1の記事はこちら!
苦難は急なテレイン変更…だけでは無かった
本大会は、元々は『サイカチ沼』でフォレスト競技の開催予定だったが、大会開催まで1か月を切る頃、突如テレイン・競技形式の変更が告知された。このご時世なのでまたコロナのせいなのか…と思いきや、原因はクマであった。改めて、野生生物の脅威を思い知らされる。
レースの前に、本大会の運営について、実行委員長の藤澤簾に話を伺った。
―本大会の準備はさぞ苦労されたことと思います。せっかくコロナの影響も治まってきたところでしたが、クマの影響でテレインが変更になってしまいましたね。
藤澤:はい。夏場の大会試走時に毎回クマが目撃される状況で、競技を行う上で安全面に問題があるのでは…ということで、残念ながら『サイカチ沼』での開催を断念しました。
―仙台に限った話ではないのかもしれませんが、仙台では数年に1回野生生物の大量出現年があるイメージがあります。今年は当たり年だったのかもしれませんね…。
藤澤:そうだったのかもしれません。(青葉山の上にある東北大の)工学部でも、頻繁にクマ出没の連絡が飛び交う状況でした。
―クマだけでなく工学部の食堂そばにイノシシが出現した日があった、なんて話も会場で耳にしましたね…。
さて、そこからテレインがグランディに、競技形式もスプリントに変更となりました。テレインの変更は、やはり渉外が困難を極めたと思います。
藤澤:そうですね。他のテレインも考えていたのですが、本来、大会開催の渉外はもっと何か月も前から行うもので、グランディ以外は全て渉外がうまくいきませんでした。グランディに決まっても、大会直前に施設要望で使用できないエリアが増えたりと、コースを組む上での苦労は大きいものでした。コースプランナーは特に大変だったと思います。
―直前でのエリア制約は厳しいですね…。最終的なコースが決まったのはいつ頃ですか?
藤澤:大会5日前くらいですね…。
―えっ…想像以上に直前まで苦労されたのですね。本当におつかれさまでした。直前までの苦労の中で生み出されたコース、今日は存分に楽しませていただきます。
制約の中に光る工夫、そして衝撃のラスポゴール
宮城県総合運動公園グランディ・21は、中央のスタジアムを中心として、入り組んだ道や立体交差、階段などが特徴的なテレインである。エリアの制約で今年は利用できない要素も多かったが、その分、工夫が光る箇所もあった。スタジアム東部は道が入り組んでおり、このテレインの名物エリアでもあるのだが、思い切って道以外の個所を立入禁止としてきたのである。
以下、該当箇所の2013年前日大会(男子予選)と2021年本大会(Lクラス)の比較画像をご覧いただきたい。
元々、道以外の部分が立入可能だとしても走っていると混乱しやすく面白いエリアなのだが、道以外を立入禁止とすることにより、複雑な道をどう処理するかというルートチョイスが多数生まれた。特に、Lクラスの7→8については参加者により大きくルートが分かれ、面白いレッグとなった。
この道が入り組んだエリアを過ぎ、レースも終盤…というところで、ふと赤白テープ誘導がふもとから急な斜面上に延びているのが目に入った。まさかと思って地図の最後を見たところ…
見た瞬間に、思わず「あ“⁉」と声が出てしまった。東北大の普段の体力トレみたいなわけのわからないレッグが、まさかこの土壇場、ラスポゴール(最終コントロールからフィニッシュを結ぶレッグ)で登場してくるとは。ある意味、東北大「らしい」レッグとも言えよう。筆者はヘロヘロになりながら登ったが、一部の東北大OBOGや、はたまた俗にいう「ラスポ芸人」にとってはたまらないレッグだったのかもしれない。聞くところによると、最終コントロールのパンチ前に、おもむろに屈伸を始めた選手がいたとか…。
それにしても、なんであんなレッグを作ってしまったのか。会場にいた競技責任者の波根竣介に話を伺った。
―アノラスポゴ-ルハナンデスカ?
波根:本来はグランディのスタジアム周辺を楽しむコースにしたかったのですが、先週になってスタジアム西部が使えなくなり、グランディの持ち味が減ってしまいました。ですが、あのフィニッシュ付近にはグランディを象徴する植え込みがありまして、あれを横目に楽しみながらグランディを味わってほしい、と考えてあのレッグが生まれました。
―登りながら横目に楽しむ余裕は無かったんですが…。
波根:あと、7月に行われた岩県大会のラスポゴール選手権のレッグも参考にしてみました。
―あれか! いや、北東学連で仲がいいというかインスパイアされているのはいいことだと思うんですが、よりにもよってあのレッグを参考にしなくてもいいじゃないですかー。
―スタジアム東部の入り組んだ道のエリアが難しかったという声が多いですね。特に7→8はみなさん悩んだようです。
波根:コースプランナーによると、間に9番を経由するルートが早い想定だと話していましたね。今回のコースは、回せる範囲でできる限りを出し尽くしたコースになっています。
―このレッグはルートがかなり分かれたようですね。会場では、方向転換の少なさから11番を経由して下まで下り切るルートも早いのでは、という話も出ていましたね。
―ところで、別のスタッフに聞いたところ、大会5日前まではあのフィニッシュがスタートだったそうですね。直前のコース変更、本当におつかれさまでした…。コースもですが、地図作成も大変だったと思います。本大会はテレインが急遽変更になったとのことで、地図の作成期間も厳しかったのではないでしょうか?
波根:地図は10月から作り始めました…。
―旧図があるとはいえ、1か月でよくここまでたどり着いたと思います。元図はやはり、2013年の前日大会のものを?
波根:実は、2005年のものを元図にしています…。
―まさか…2013年に前日大会が開かれたのを知らなかったとか⁉
波根:そういうわけではないのですが…実は、2013年の地図データが部に残っていませんでした。
―…なんということだ。これまで色んな大会を取材してきましたが、このパターンは初めてです。ここで読者のみなさまに申し上げます。みなさんのクラブで作った地図、ちゃんとクラブに残っていますか? マッパーが卒業したり、転勤したりしたあと、データが残ってない、とか無いですか? 地図はせっかくの財産なのですから、バックアップはしっかりとっておきましょう。
―ところで、2013年の地図ここにあるけど見ますか?
波根:見ます! こんな地図だったんですね…。
わーわー(地図を見て盛り上がる役員たち)
長岡、小林が総合優勝!
本大会は、2日間の合計タイムで競う形式であった。Day1時点では山田基生(青葉会17/アイスの会)が首位に立っていたが、このDay2で長岡凌生(青葉会2016)が全参加者で唯一、14分切りのタイムをたたき出し、総合優勝を奪取した。また、女性の部では、小林祐子(青葉会2017)が総合優勝となった。優勝した長岡、小林にインタビューを行った。
―本日はどのようなレースでしたか?
長岡:序盤が難しくて、道が入り組んでいるエリアのルートが分からなかったが、後半は走れるエリアだったので、気持ちよく走れました。2ポの位置が分からなくて、手前で数秒止まってしまいましたね。そのあと、間違えて2→4に行ってしまいました。4ポについて「3ポに行ってない!」と気づきました。
―結構大きなミスをしていましたね。よくそれであのタイムが出たものです…。
長岡:走りやすいテレインだったので、最近陸上系のトレーニングを多くしていたので、それが活きました。
―ラスポゴールはどうでしたか?
長岡:走り抜ける意気込みはありましたが、さすがに歩きました…
―さすがにそこは失速しましたか…。とはいえ、あれだけミスをしながらも圧巻のタイムでした。改めて、優勝おめでとうございます。
―本日はどのようなレースでしたか?
小林:昨日(Day1)の生垣ゾーンのような、細かい読図を必要とする苦手なレッグがあまり無かったことから、爽快に走れて昨日とは違った楽しさが味わえました。4〜12ポの道が入り組んだエリアで、レース中はしっかり読めたつもりでしたが、後から見返したらけっこう負けルートを選んでいたことに気づき、悔しかったです。
―小林さんはOG1年目ということで、初めての東北大大会参加だったと思います。
小林:自分はフォレストの方が得意だったので初めはテレインが変わって少し残念でしたが、優勝を目標にたくさん練習してきました。目標を達成でき、景品も豪華でとても嬉しかったです。来年も優勝したいです!
―見事な走りでした。優勝おめでとうございます。
小林:ちなみに、フィットネス(子供たちの体験会)のコースも走らせていただきました。大繁盛だったし、地図もしっかり作られていて感動しました。現役生の皆さんは、本当におつかれさまでした!
参加者の声を一部紹介
・制約があるテレインの中で、最大限の工夫があって面白いスプリントでした。(大石さん:トータス)
・2日間とも、コース内で非常に体をくるくる回転させる要素が考えられていて、非常にいいスプリントを楽しめました。(谷野さん:ときわ走林会)
・これまでやってきたスプリントとはまた違ったルートチョイスや走りを求められて、とても楽しかったです(宮嶋さん:京葉OLクラブ)
・テレイン変更から準備期間が短い中で、よくこれだけのクオリティの大会が開けたと思います。「東北大大会として2日間」というのは初めての試みだと思うので、新しい要素があるのも良いと思いました。東北大大会は、現役生、OBOGみんなに会えるので大好きです。(宮西さん:青葉会)
・ラスポゴールにOBへの愛を感じました。それに尽きます。(堀江さん:青葉会)
・要所要所でテクニカルな要素があって、読み切ることができなかった。やられたなという感じです。コースはすごく楽しかったです。(川名さん:入間市OLC)
・ラスポゴールで上を見上げた時に絶望しました。フィニッシュから見下ろす役員側になりたかったなと思いました。(渡邉さん:青葉会)
「帰ってくる場所」としての大学大会
本大会では、しばらく競技から離れていた東北大のOBOGが久々にオリエンテーリングを楽しむ姿が見られた。
「いやー、まともに走るの4年ぶりなんですよ」
「コンパスを出してきたの3年ぶりです…。コンパスが指す方向あってるか自信ないので、先輩のコンパスと方向比べてもいいですか?」
「久々にeカード装着したけど、なんかすごい違和感…。装備方法これでよかったっけ?」
といった会話がなされるのを見ながら、大学大会の「帰ってくる場所」としての意味合いの強さも再確認した。これは東北大の話ではあるが、他の大学においても同じ状況となろう。昨今、コロナ禍でやむなく中止となってしまった大学主催大会も多いが、いつの日かまた復活し、一般参加者はもとより、大学OBOGがオリエンテーリングを楽しむ場としても機能することを大いに期待したい。大学大会に限った話ではないが、オリエンテーリング大会の会場でかつての仲間に会うことができるのは、とても嬉しいものだ。
コロナ禍、野生生物、渉外制約と、さまざまな苦労を乗り越えて開催された第44回東北大大会。コース完成も大会5日前と急造の要素もあったが、そんな急造っぷりを感じさせない素晴らしい大会であった。運営者には、参加者として また 東北大のOBとして、大会開催にこぎつけてくれたことを大変感謝したい。
https://mulka2.com/lapcenter/lapcombat2/index.jsp?event=6656
[Writer : yi+]