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#169_快晴の岩手山を臨む藪と急斜のワンダーランド「子抱」 - 第15回岩県大会

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2021年7月18日、岩手県岩手郡岩手町子抱にて第15回岩手大学岩手県立大学オリエンテーリング大会が開催された。今年度梅雨明け最初のオリエンテーリング大会であり、当日は雲一つない快晴そして気温も真夏日を記録するほどの気候の下、開催された。

 
岩手大学岩手県立大学オリエンテーリング大会は、その名の通り岩手大学岩手県立大学オリエンテーリング部が合同で開催される大会である。「岩県大会」の略称で知られており、毎年盛岡市岩手山周辺のテレインを舞台として参加者を楽しませている。昨年は昨今のコロナ禍ということもあり大会開催を断念せざるを得なかったが、今年は前日のロゲイニング大会、そして当日は全日本ランキング対象のロングディスタンス競技と非常に内容の濃い大会が開催された。当初は6月27日に開催が予定されていたが全国のコロナ感染状況を鑑みて延期を余儀なくされたが、運営者の尽力と地元の理解もあり7月18日に無事に開催される運びとなった。

本大会で使用されたテレインは『子抱「一般ティアのオラが子抱でワンダーランドしてめんこいアリスになったんだが!?」』である。ここでいうワンダーランドは道に迷う(ツボる)ことを意味するが、実際多くの参加者が暑さと藪に翻弄されこのワンダーランドを満喫することになる。
テレインは西側と東側で大きく雰囲気が異なる。西側は比較的緩斜面のエリアが多くまた伐採が入ってラフオープンになっているエリアも目立つ。テレイン中央から南にかけては他のテレインと同様に気持ちよくオリエンテーリングができる雰囲気だが、テレイン中央から北にかけては藪も多く実際に走行可能度が大きく下がるレッグも存在した。一方で東側だが西側とは対照的に急峻なエリアが大半を占める。藪やオープンハッチによる走行可能度が下がるところも目立ちタフなレースになることが予想された。テレインの真ん中にはD藪とオープンハッチのエリアが占めており、旧マップではこのエリアは地図調査が行き届いていなかったため立ち入り禁止であったが、本大会ではそのエリアが追加されルートチョイスに影響を与えている。
テレイン全体を通して事前のプログラムでも指摘された通り有刺や藪が多く、肌を露出しない長袖・長ズボンでの出走が推奨された。

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会場の様子

大会当日、この日は本州の梅雨明けと同時に全国的に気温30度を超える真夏日となった。岩手県もその例外ではなくスタート前からこれから始まるレースの過酷さは容易に想像ができた。会場近くまで車で来ると、数名の大会運営者が駐車場の案内をしており学生大会の雰囲気を感じさせてくれる。会場からスタート地点への移動の途中の道中にも役員が配備され、またテレイン中にも給水地点が各所に設けられ岩手大学岩手県立大学の人員の多さと参加者への十分な配慮を感じることができた。
会場からスタート地区まで徒歩40分、暑さと容赦ない日差しが忘れられないがそれ以上に印象的なのがテレイン南西にそびえる岩手山である。本テレイン『子抱』は岩手山から北東に位置し、当日はほとんど雲一つない快晴であったため岩手山の稜線をはっきりと臨むことができた。スタートエリアはテレイン西のラフオープン上に設けられたが、あまりの暑さに早く森の中に駆け込みたいと思っていた選手は多いだろう。

さて本大会のコースであるが、まずはM21Aクラス。M21Aクラスは2マップ形式であり、前半はテレイン西側から中央部にかけての緩斜面エリアでのナビゲーションである。一部ハッチやB藪はあるものの、比較的気持ちよく走ることができるレッグが続く。5番コントロールをとった後は森の中からラフオープンへ出るのだがここで容赦ない日差しを浴びることとなる。北側にある会場付近のエリアは藪により走行可能度が下がり思うようにスピードが出ない。会場付近の野球場のテープ誘導を通り、10番コントロールで地図を裏返し2枚目の地図をみると11→12のロングレッグに驚かされる。本レッグはテレインのほぼ北の端から南の端まで伸びており、テレイン中央のD藪の東側をたどるか西側をたどるかのルートチョイスが求められる。ロングレッグのあとはテレイン東側の急峻なエリアがメインの舞台となる。レース終盤で体力が削られていることに加え前述した通り真夏日の暑さの中で容赦なくタフなレッグが襲い掛かる。終盤戦で特筆すべきは15→16である。レッグ線が広大なオープンハッチを横切っている。どの程度通行可能なのか予見しにくい中、オープンハッチの真ん中をきるか、左側から高さを維持しつつ回り込むか、またオープンハッチに一切足を踏み入れない右側を進むか非常に悩まされる。実際はオープンハッチの中に通行が非常に困難な個所が散見されたらしく有力選手でもここで大きくタイムを落とす者もいた。
M21Aクラスは1位:橋本正毅選手(青葉会)、2位:新隆徳選手(入間市OLC)、3位:根本啓介選手(京葉OLクラブ/桐嶺会)という結果であった。本クラスは、出走者47名中19名がDISQとなっており、そのうち多くの選手が会場付近の11番コントロールでリタイアしており、コースのタフさや当日の真夏日の過酷さがうかがえる結果となった。

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M21A(前半) 2位の新選手のルート図

 

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M21A(後半) 2位の新選手のルート図

続いてW21Aクラス。コースの回しとしてはM21Aと同様に、前半はテレイン西側の比較的緩斜面なエリア、中盤にテレイン北側から南側へのロングレッグを挟みそして後半は東側の急峻なエリアである。前半の見ものレッグはレッグ線がD藪をまたいでいる2→3であろう。テレイン中央部にあるD藪を堂々とレッグ線がまたいでいるが、勇気を出して通り抜けるか、またはD藪を大きく巻いて安全策に出るか悩まされる。方向を維持してうまく超えられた選手もいれば方向維持がうまくいかず想定外の場所に抜け出てしまいミスタイムを計上した選手もいたようだ。また、後半のレッグ線がオープンハッチエリアをまたいでいる9→10も非常に悩ましいレッグだ。M21Aで前述した通り植生の状況に予測できない中でルートチョイスが迫られる。
W21Aクラスは1位:宮本知江子選手(京葉OLクラブ/桐嶺会)、2位:宮本和奏選手(京葉OLクラブ/桐嶺会)、3位:森谷風香選手(入間市OLC)という結果であった。

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W21A 1位の宮本選手のルート図


本テレインの特徴は緩斜面と急斜面、藪と有刺とラフオープンとまさに様々な顔をのぞかせるワンダーランドであった。選手は皆多かれ少なかれそのワンダーランドに翻弄されアリスとなったのではなかろうか。

 

また、本大会ではあるもう一つのイベントが注目されていた。ラストコントロールからゴールまでのタイムを競ういわゆるラスポゴール選手権が開催されたのだ。ラストコントロールからゴールまでのタイムなので、クラスを問わず本大会参加者全員がその選手権の対象となる。これまで他の大会でも、ラスポゴール間のトップラップに命を懸ける選手は必ず存在していた。普段はそれを「ラスポゴール選手権」と称し瞬脚を持つ体力自慢がラスポゴールでトップラップをとることに情熱を注いでいたが、本大会ではそれが具現化されることとなった。
ラストコントロールからゴールまでは距離190m・アップ35mとこの真夏日の中タフなレッグをこなしてきた選手にとっては決して楽ではないコース設定となっている。事前にTwitterでは運営者の1人が走ったところ49秒と告知され、ラストレッグの長さとタフさが想像できた。(なお筆者はラストコントロール時点で体力の限界を迎えており、ゴールまですべて歩き2分を超えるタイムであった)
並みいる強豪を抑えてラスポゴール選手権を制したのは田中創選手(大阪OLC/OLCレオ)であった。田中選手にインタビューを敢行した。

 

ーラスポゴール選手権優勝おめでとうございます。走っている間はどのような気持ちでしたか?また、どのようなことを意識して走りましたか?

田中:とにかく無我夢中で走りました。テープ誘導をたどり間違えないようにまた他の走行者の邪魔にならないように走るところをチョイスするなど冷静にかつ情熱を持って走りました。

ー今後もラスポゴール選手権を目指すかと思われますが、今後に向けて改善点等ありましたら教えてください。

田中:一度スピードを落とすと再度スピードを上げることが困難になるのでスピードを落とさないように心がけておりましたが、最後のゴール手前で減速をしてしまったことが反省です。とはいえ、事前に運営者のタイムが49秒と聞いていたので上りレッグだというイメージはできていたのでそれは良かったと思います。次回もこのような機会がありましたら連覇を目指したいです。

 

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ラスポゴール選手権を制した田中選手

 ラスポゴール選手権は今後どの大会で開催されるかわからないが、優勝を目指す選手はぜひとも参考にしていただきたい。

 

非常に内容盛りだくさんの岩県大会を開催していただいた実行委員長の細川翼にインタビューをしてみた。

ー岩県大会を開催いただきありがとうございました。前日のロゲイニングと当日のロングディスタンス協議と非常に内容の濃い大会でしたが、大会開催にあたって苦労されたことや想いなどございましたら教えてください。

細川:今回の大会を開催するにあたり、コロナ禍ということもあり岩手大学岩手県立大学とオンラインをメインにコミュニケーションをとっておりました。そういった不便もあり連携をとって進めることに困難を感じることもありましたが、無事に開催できて本当に良かったです。大会に参加された皆様にはせっかく岩手に来ていただきますので前日のロゲイニングと本日の子抱と広く岩手を楽しんでほしいと思っておりました。

ー本大会は当初は6月に開催が予定されておりましたが、7月に延期となり苦労も多かったと思います。

細川:はい、大会に参加される皆様には安全に大会を楽しんでいただきたいという思いもありまして、1度は延期を決断いたしました。本日の大会でも感染対策を万全にして皆様に安心して参加いただけるように最大限の対策と配慮をいたしました。大会を無事に開催できて本当に良かったです。

ー今後の岩県大会や、またこれからの岩手大学岩手県立大学オリエンテーリング活動について考えていることなどございましたら教えてください。

細川:今大会の運営の中での反省点や良かった点等を今後の大会運営に生かしてより楽しい大会にしていきたいです。岩手大学岩手県立大学は合同に活動することが多いのですが、昨今の情勢でそれも難しくなってしまったのですが、そんな中でもできることを模索して共にオリエンテーリングの技術や活動の幅を広げていきたいと考えております。

参加者にとっても運営者にとっても非常に内容盛りだくさんの2日間となったが、岩手の地で心に残り続ける素晴らしい2日間になったに違いない。今後の岩県大会、そして岩手大学岩手県立大学の今後のオリエンテーリング界での活躍を期待したい。

 

参加者が撮影したレース中の動画

Yuki Saitho氏 撮影
オリエンテーリング#62】第15回岩県大会@子抱【GoPro8 | Orienteering】

www.youtube.com

 

 [Writer : Takumin]