2020年10月より日本ランキング(総合/女子)が施行され、競技者からの注目を集めている。今年度の全日本大会より、エリートクラスへの出場資格(以下、E権)に適用されることも決定されており、日本ランキングへの注目度は今後さらに上がると予想される。そこで、今年度からの全日本E権取得方法の変更点、および日本ランキングについて、JOA理事の宮川早穂さん、瀬川出さんにインタビューを行ったので紹介する。
「日本ランキングやE権について、いまさら人に聞けない…」という方にもぜひご一読いただき、制度を楽しむ一助となれば幸いである。
更新:6/6 22時「日本ランキングを上げるにはどうすればいいのか?」の章の序盤、日本ランキングの対象レース数についての話を追記しました。
―今年度より全日本E権の取得に日本ランキングが適用されるなど、全日本E権の取得方法が変わっています。その辺りがどう変わったのか、また、日本ランキングを上げるにはどうすればいいか、など伺えればと思っています。本日はよろしくお願いいたします。
宮川:よろしくお願いします。
瀬川:よろしくお願いします。
全日本E権取得方法の変化
―そもそもの話ですが、今年度になってE権の取得方法を変えることになった理由はどこにあるのでしょうか?
宮川:これまでE権取得するには公認大会で上位に入るのが主だったのですが、公認大会が少ないという課題がありました。全日本大会を前にしっかりとした予選制度をつくるにあたり、IOFでもワールドランキングが制度としてありますが、それを模した形で日本でも選手のモチベーション向上を図ったり、全日本の予選として使えるような取り組みができればと考え、E権取得方法の変更(全日本大会エリートクラス出場資格規則の改正)を提案しました。
―6月1日付で、全日本大会エリートクラス出場資格規則が改正されていますね(参照:http://www.orienteering.or.jp/rule/)。今年度から全日本E権(M21E/W21E)の取得方法は以下のように変わっています。大きな変更点は、日本ランキングによるE権取得が追加されている点でしょうか。
宮川:公認大会によるE権付与はもともとあったのですが、公認大会以外でも国内で競技的に質の高い大会はたくさんあるので、そちらをJOAの全日本委員会の方から「ランキング指定させていただけませんか」と大会主催者にお願いさせていただいております。最上位クラスをランキングのポイント算出のためにお借りするというイメージです。
―日本ランキング以外の項目の変更点はどうでしょうか。前年度全日本の上位者にE権付与、という点は変更なさそうですね。公認大会については変更されていますね。
瀬川:公認大会については、これまで上位平均の115%としていましたが、順位の方がいいよねという話になり、順位でのE権付与に変わっています。
宮川:E権付与の考え方としては、基本的には日本ランキングで付与する、という考え方をしていますが、突出して早い選手、1レースで決められる選手もいると思っていて、それは日本ランキングではない条項で救うイメージでいます。ただ、前々年度や前年度で検証しましたが、「日本ランキング 男子70位以内、女子50位以内」という条項だけで、他の条項を満たす人はほとんどカバーできています。
―例えば、(日本ランキングは2レース対象なので)1レースしか出られなかった人を救う、みたいな感じでしょうか?
瀬川:あとは急成長してきた選手を救う、という意味合いもありますね。急成長してきた選手は、複数レースの結果を反映する日本ランキングでは追い付かない場合もあるので。
―なるほど、特に学生はそのパターンが多そうですね。
宮川:ジュニア(M20E/W20E)についてもランキングを作ってE権付与、ということを考えていたのですが、いまの急成長の話もあるように、現行のランキングでは対処できない局面があります。タイムのばらつきも大きく平均化するのが難しい、というところがあります。
瀬川:いまの日本ランキングと同じアルゴリズムを使ってランキングを主としてE権付与、というのは難しいですね。
宮川:その分、ジュニアに対しては、公認大会や日本ランキングに関する条項をゆるく設定しています。
―M21E/W21Eのように日本ランキングを主としてE権付与するのが難しい部分を、ゆるく設定することでカバーしている、と。
宮川:あと、若い子たちにはたくさん挑戦してほしいという思いもあっての設定ですね。競技時間を超えたりだとか全然完走できなくて選手自身が嫌な思いをしてしまう、ということさえ無ければ、ぜひ20Eクラスに挑戦してほしいと考えています。
宮川:これはぜひ強調しておきたいのですが、21E/20Eともども、この条項の数字設定等はJOAの競技委員会やアスリート委員会とも協議したうえで作っているのですが、今年度からの適用ということでどうしても不都合等は出てきてしまうと思っています。それらを見直しながら進めていきたいと考えています。元々設定していた思いはありますが、そこに縛られず、改定していくことも視野に入れて運用していきたいと思っています。
―極端な話、数年たたずに改正されていることもあるということですね。
宮川:その可能性はあります。
―となると、最新情報にはご注意ください、ということですね。
宮川:JOAではアスリート委員会(http://www.orienteering.or.jp/athlete/)も立ち上げており、選手として思ったことがあればそこに意見を送ってもらえればと思います。もちろん、日本ランキングに関する意見も受け付けていますので、送ってもらえれば、来年以降の規則への反映を検討していきたいと思っています。
(アスリート委員会のサイト内に、意見送付用のフォームがあります)
―ちなみに、スプリントについては、今年度からの変更点というのはあるのでしょうか?
瀬川:今回の「全日本大会エリートクラス出場資格規則」の改正では変更点はないですね。
―今後、E権取得については変更となるのでしょうか?
宮川:すでに公表済みの内容なのですが、今年7月ころに、スプリント版の日本ランキングを公開予定でして、来年度の全日本スプリントのE権についてはフォレストと同じような考え方での取得となるよう検討しています。制度含めて、これからというところではありますが。
日本ランキングを上げるにはどうすればいいのか?
―では、続いて日本ランキングについてお話を伺いたいと思います。日本ランキングには「点数の良かった2大会分の結果が反映される」ということですね?
宮川:そうですね。成果物(ランキングの結果)については、アスリート委員会の方でも精度がよいという評価をもらっています。ただ、アスリート委員会からは3レースの点数合計を希望してもらっていたのですが、全日本委員会側で今年はコロナ禍もあり不確定な要素がある点と、3レースは参加できない方も全日本にチャレンジできる環境を整えたいと思い、全日本委員会側で「2レースの点数合計で今年度は施行する」という方針にしました。
―競技者の関心事は「どうすれば日本ランキングを上げられるのか」だと思います。日本ランキングで高得点を獲得するためには、基本的なところとしては、当然ではありますが「日本ランキング対象の2つの大会で早いタイムを出す」ということになるかと思います。他の要素はあるでしょうか?
宮川:日本ランキングの対象大会にはランクがあります(下表参照)。
ランクAやBの大会では、タイムによって獲得した点数に対して、さらに加点される仕組みになっています。
―ランクAやBの大会で早いタイムを出すことにより、より高得点を獲得しやすいということですね。
宮川:そうです。
―大会の周りの出場者によって得点が大きくなりやすかったりはするのでしょうか? 例えば、有力選手がたくさん出場する大会で上位に入ると得点が高くなりやすい、とか。
宮川:それはどうなんでしょうか。西村さん(NishiPRO)に聞いてみたほうが確実ですね。
―ちょっと西村さんに聞いてみましょう。ランキングを上げるうえでのポイントとかはあるのでしょうか?
(別途メールで聞いてみた)
西村:日本ランキングを上げるうえで、ランクAやBの大会が重要、というのはその通りです。しかしそれに加えて何かあるかというと、はっきりと有利になる戦略はないと思います。
以下の画像を見てください。女子のTop2、皆川さんと稲毛さんの直近の獲得点です。
1.日本代表選考会は女子クラス出場でした。すなわち、自分たちと比べて有力選手がいない大会です。
2.ジュニアチャンピオンは男子クラス出場でした。すなわち、自分たちと比べて有力選手がたくさん出場する大会です。
全く異なる環境であるにもかかわらず2人とも、どちらの大会でも同じような点数に落ち着いていることが分かると思います。
これはつまり、参加者層の実力によって点数を調整するロジックがある程度うまく機能していて、大会による有利不利がでにくい状況にある、という事になります。
―なるほど!(日本ランキングの精度すごい…!)
西村:しかし、そんな中であえて申し上げるとするならば「泥仕合で諦めない」というのは重要かもしれません。地図がちょっと怪しかったり、大雨が降っていたりと、「荒れる」要素があると、本来の実力を出せずに崩れる選手が増えるため、そこでいい結果を出すと思いのほか点数が出る、という事はあり得ると思います。
また、コロナ禍の影響もあり、今年は上位2大会の合計とするルールになっています。IOFのワールドランキングは上位4大会の合計なので、2大会というのはかなり少ないです。そのため、コンスタントに安定した実力を出せる選手より、波はあっても一発・二発「当てる」ことの出来る選手の方が評価されやすいものになっており、特に当落線上にある選手にとってはリスクを取ったレース運びがより重要になるかもしれません。
―突如出演の西村さん、解説ありがとうございます。
―日本ランキングの対象大会を知りたい場合はどのようにすればいいのでしょうか?
宮川:日本ランキングのWebサイト(http://www.orienteering.or.jp/elite_ranking/)に最新の対象大会が掲載されていますので、そちらをご覧ください。また、JOAのTwitterでも告知しています。
―日本ランキングの対象大会は、そもそもどういった基準で設定しているのでしょうか?
宮川:ランキングの対象は、年間12レース以上を目標にしています。残念ながら、今年は延期や中止の影響でギリギリ達成できるか…というところではありますが。前年度の大会参加者数を参考に、あと地域や日程はばらばらになるように設定しています。なるべく毎月、色んなところで…というのが理想です。
宮川:今年度からの試みということで、混乱を招いてしまうところもあるかと思いますが、軌道に乗るまで温かく見守っていただければ幸いです。参加者の方からは、モチベーションの向上につながるという感想もいただいていて、励みになります。
―反応あるとうれしいですよね。個人的な話になりますが、OKリーグも同じように思いますし。日本ランキングの登場により、さらにオリエンテーリングを楽しんでいきたいですね。
―今年度からの全日本E権取得方法の変更点、および日本ランキング概要についてはこれで網羅できたかと思います。宮川さん、瀬川さん、本日はありがとうございました。OK-Info読者のみなさまも、日本ランキングを楽しみつつ、制度に対する意見や今後の改善点がありましたら、JOAアスリート委員会(http://www.orienteering.or.jp/athlete/)に送ってもらえれば幸いです。
(繰り返しになりますが、アスリート委員会のサイト内に意見送付用のフォームがあります)
▼日本ランキング - 日本オリエンテーリング協会
http://www.orienteering.or.jp/elite_ranking/
▼最新日本ランキング(総合)
http://nishipro.com/elite_ranking_all.html
▼最新日本ランキング(女子)
http://nishipro.com/elite_ranking_women.html
▼規程類 - 日本オリエンテーリング協会
http://www.orienteering.or.jp/rule/
▼アスリート委員会 - 日本オリエンテーリング協会
http://www.orienteering.or.jp/athlete/
[Writer : yi+]