2022年5月8日、筏場クラシック&ミドルが静岡県伊豆市の「筏場国有林」で開催された。名称こそ筏場クラシック&ミドルだが、実態は第11回KOLC大会である。
日本最難関のテレインの1つとも言われる筏場。その難しさはよく話題になることだが、ここでの大会・練習会はまだ実は3度目である。このテレインは第9回KOLC大会で使われる予定であったが、新型コロナでの不要不急の外出自粛が叫ばれ第9回KOLC大会は中止になった。さらに翌年には筏場での練習会も予定されていたが、こちらも新型コロナ再拡大で中止となった。
そして、ついに今回大会が筏場での開催となり、2月開催を目指していたが、積雪の影響で延期となった。実に2度の中止と1度の延期ということになり、運営陣の苦労がしのばれる。
<競技の様子>
さて、こうして2年の時を経た筏場は新規エリアが拡張されていた。
2年前に拡張して日の目を浴びる予定だった南東エリアと、今回大会のために拡張調査された西エリアだ。
本大会は主にミドル競技だが、最上位クラスでは、既存エリアにこれらのエリアを加えた範囲でのクラシック競技が行われた。クラシック競技とはミドルの性質で長い距離を走るものだ。最長のM21Aは6.7kmのコースとなっていた。
まずは、コースを見ていただこう。
やはり、高密度で難解なテレインである。特に序盤のエリアでは多くの人が完全に現在地ロストしている様子であった。筆者も全然違うところを彷徨ってからコントロールにようやくたどり着いても、「おや、この人さっきも見たな」と、みんなツボっている様子にどこか安心してしまった。
6番から9番がついているあたりが南東の拡張エリアである。拡張が分かりやすいのは西エリアで、こちらはなんとほとんど岩がない。同じテレインの中とは思えないほど、性質の違うエリアとなっていた。こちらは爽快に駆け抜けることができた。
コースは岩場エリア→新規エリア→岩場エリアと、最後に短いながらもう一度岩場エリアに入らせるコースとなっていて、意識の切り替えが必要であった。M21Aでは特に岩場からエリアに再び入った、ゴール直前の26→27でミスをする競技者が多かったようだ(レッグ分析で2番目の難易度)。
本大会ではM21Aで競技時間(150分)内の完走者が65%程度となっている。やはり多くの参加者が本テレイン最大の魅力でもある溶岩地帯の微地形に悩まされたようだ。(筆者もあと3分ほどで競技時間オーバーでヒヤヒヤした)
M21Aでは、丘の上クラスで伊藤樹選手が62分台のタイムで優勝した。このテレインの調査経験があり、多少のアドバンテージがあるとはいえ、M21A1、M21A2のトップより8分ほど早く、圧倒的なタイムであった。M21A1は永山選手、M21A2は大橋選手が優勝した。
W21Aは、今年のWOC代表の伊部選手が制した。2位以下とは接戦だった模様だ。
<競技以外の工夫>
本大会のスタート誘導はバス7分+徒歩85分と長いものであったが、誘導区間を飽きないようするためか、道中にはクイズやトリビアが数多く設置されるなど工夫されていた。すれ違い困難な狭い道を通るバスを10分おきに出していたのも簡単なことではないだろう。
レース後に帰りのバス乗り場に着くと大会役員から1枚の紙を手渡された。よく見ると、大量のこぶ表記が書かれた紙だ。なんと筏場のテレイン内のこぶを全部載せたらしい。こぶを数えてみてくださいと言われたが、50個くらい数えたところで諦めてしまった。よく地図にこれだけのこぶを打ったな、というかよく調査したなと思わされた。ちなみにアンケートにこぶの数を書く欄があったので、ちゃんと正しく数えたら何か良いことがあるのかもしれない。
<座談会>
さて、ここからは本大会にかけた思いについて、運営陣の各責任者と座談会を行った内容をお伝えする。
登場人物
競技責任者・コースプランナー :佐野良我(慶應義塾大学)
作図責任者 :野上世蓮(横浜国立大学)
イベントアドバイザー :江野弘太郎(慶應義塾大学卒・第9回大会実行委員長)
インタビュアー :吉澤雄大(第7回大会(@筏場)運営)
※運営責任者は多忙により欠席
Q.今回筏場で大会が行われることになった経緯について教えてください。
(碓井)元々は新規テレインを調査して大会を開く予定でしたが、ちょうどコロナの波と被ってしまい、学生の行動が制限されてしまいました。その結果、新規テレインでの調査は時間的に難しいという判断になりました。一方で調査をしたいという思いは継続してあったので、筏場でエリアを広げようということになりました。
Q.筏場の新規エリアはどんな様子でしたか?
(碓井)そもそも2年前に今回の南東エリアは調査されており、(中止となった)第9回大会でお披露目される予定でした。また、西のエリアも2年前に(O-mapの形にはなっていなかったが)少し調査されており、これを自分たちの手でさらに調査を加えて完成させようと思いました。僕は最初に筏場に入ったのが、この西エリアだったため、筏場の既存エリアの大量の岩場を後日見たときに本当に驚きました。
(吉澤)おそらく天城山系の溶岩流で岩場ができていると思うのですが、沢を一つ越えるだけでここまで景色が違うとは驚きました。
(野上)KOLCの1年生から4年生までたくさんの人が調査・試走してくれました。西エリアは国土基盤地図の等高線が比較的正しかった印象です。一部の尾根沢を強調することは心掛けました。このエリアの植生は日光テレインよりもさらに白いように感じました。調査自体はコロナの猛威が落ち着いた2021年10月から2022年2月という期間で主に行いました。
(吉澤)私は新規エリアとても気に入りました。
(野上)筏場の色々な面を楽しんでもらえて良かったです。SNSでは意外と西側の新規エリアの反応が無かったので、参加者の皆さんからもう少し新規エリアの感想ももらえると嬉しいです。
Q.コースで工夫したところを教えてください。
(佐野)線状特徴物を使えるようにして、ずっと足場が岩場できついのを避けました。極端に目立つもの(拾えるもの)が少ないレッグを避けて、多少難易度を抑えました。
また、M21Aの13→14なんかは岩場が少なくて筏場の特徴の一つである景色の移り変わりも楽しめる、爽快な区間だったかと思います。
(江野)M21Aの6→7→8→9のあたりは、2年前の第9回大会でも置くはずだったコントロール位置があります。多少無理を言ってしまったかと思うのですが、使ってもらえて嬉しかったです。裏話をすると、このエリアを使うことでちょっと距離が伸びて、クラシック競技になりました。
(吉澤)7のあたりの風景は独特で楽しかったですね。ちょっと北欧を感じました。なるほど、2年前の大会のコースを継いでいる部分があるんですね。
(佐野)それから西の白いエリアから既存の岩場エリアへと最後戻すことで緩急をつけています。特にM21Aの21→22→23→24は非常に気持ちよく走れる区間でトップスピードに乗れます。このスピードに慣れた後で同じようなスピードで注意せずに後続の24→25→26→27に突っ込むとミスをしやすいと思います。
(吉澤)実際、ゴール間近のM21Aの26→27はレッグ難易度がコースで2番目に高かったです。プランナーの罠にはまった人がたくさんいたんでしょうね。なお、このレッグは救護所より東にある小径を北に入っていってアタックすると、比較的安全にたどり着けます。
Q.大変なことたくさんあったと思いますが、印象に残ってることありますか?
(碓井・江野)会場の選定が大変でしたね。2月は使えたキャンプ場は、年度が替わる際に民営化されて改修工事されました。民営化されて値段も上がったし、そもそも5月は使えないということになりました。今回使用した小学校も当初は使えないという話だったのですが、なんとか使えることになり安心しました。
(碓井)バスを出すことと誘導が長いことで参加者のスケジュールを組むことも大変でした。これに関してはメインで動いてくれた運責の栗山さんに感謝してます。
(佐野)コースを組むのが大変でした。エリア的に導線が限られていました。西エリアに入った後に道を使わずにもう一度東側に戻したかったのですが、激斜でないこの部分(M21Aの24→25)を使ってエリア移動させることにしました。西側の新規エリアを使うとどうしても距離が伸びてしまうのですが、距離をなるべく伸ばさないようにしながらもこのエリアを楽しんでもらい、そして24のところまで持ってくる回しを組むのに苦労しました。
(野上)コースの手直しやコントロールの調整を自分が実施したのですが、大変でした。既存の岩場のエリアでは、M21Aが2コースあることもあって、やはりたくさんのコントロールを置きました。レッグ線が見にくくならないように工夫しました。一方で新規エリアは特徴物が少なく、コントロールを置ける理想の位置が限られていました。競技規則の「隣接コントロールを一定距離以内に置いてはいけない」を遵守するのが大変でした。EAの江野さんと2人で別々にコースを組んでみたけど、同じコースを組んでいたなんてこともありました。
Q.競技以外でも工夫が多く見られましたね。個人的にはスタート誘導でクイズや豆知識みたいの置いてたのが興味深かったかな。
(碓井・江野)スタート地区が会場から遠くなってしまうのは、このテレインの立地上、どうしようもない面があります。しかし、その長さを多少でも気持ちの面で和らげることができたらとスタート誘導にクイズなどを置いていました。代々のKOLC大会が受け継いできた、「参加者に楽しんでもらえる大会にしたい」という思いはありましたね。会場の装飾や大きいイカずきんちゃん(通称:でかずきん)なんかも参加者に好評でした。あとは、表彰式で優勝者の発表時にドラムロールを流したり、表彰時にクラッカー鳴らしたりしました。
(吉澤)クラッカーびっくりしました。驚いたといえば、帰りのバス待機所でもらった大量のこぶだけが書かれた紙にも驚かされました。
(碓井・野上)運営者slackでこぶだけの画像の写真を流したら好評で(笑)。最初はスタート誘導のクイズで使おうと思っていました。
(吉澤)そういえば、アンケートにもこぶの数記載する欄ありましたね。これ、こぶの数数えたんですか?
(碓井・野上)もう少ししたらtwitterで数を発表しますよ。
(吉澤)(ちゃんと数えてたんだ…。)ちょっと話が戻りますが、今回色んなところにイカずきんちゃんいましたね。LINEスタンプに登場したかと思いきや、会場では装飾やでかずきんとして、そして地図裏にもいましたね。私のはセリフで「楽しんできてね」と書かれていました。
(碓井・野上)はい、地図裏にイカずきんちゃんいました。これ、地図によってセリフが違うんですよ。さらに裏話をすると実はイカずきんちゃんではなく、別のボツになったキャラクターが地図裏に入った地図が5枚だけあるんです。
(吉澤)それは知らなかった!
(碓井・野上)しかしながら、そのことに気づいていないのか、残念ながら該当の5枚が当たった方がそのことを発信してくれてないみたいなんですよね。是非どんなものだったのか発信していただけると運営者は大変喜びます(笑)。
(吉澤)これは見てみたいですねー。(地図裏に擦るとか、そもそも色んな方向を向くイカずきんちゃんの絵を描くとか、手が込んでいてすごい。そして楽しそう。)
Q.これは江野に対しての質問なんだけど、2年前コロナで中止になってしまった筏場での大会を今度は後輩たちが運営しているのをEAとして見てどう思った?
(江野)まず、人目に触れるのが嬉しいですね。自分や自分の代がやりたかったことを後輩がやってくれて嬉しいし、ありがたい。自分の代のイベントではないけど自分のことのように思えました。当時の調査した部分の地図もお披露目されたし、自分の代も一応頑張っていたことを見せられて良かったです。
一連の運営を見てたわけですが、後輩を巻き込んでみんなで作り上げている感じがあって雰囲気が良かったです。今の3年目が人数少ない中でも調査や試走頑張ってやっていたと思います。コロナ禍で練習会や大会を開くということが少なく、運営する姿を見せる機会がなかったので、今回大会を運営して、下の代に残したものは大きかったのではないかと思います。これからも参加すると楽しいと思ってもらえるKOLC大会が続くと良いなあと思います。
筏場のマップに関していうとテレインの面白みが増えたなと思います。某先輩も言ってましたが、さらに拡大したらロング競技の可能性もあるか、と思うと夢がありますね。
Q.運営して良かったと思うことを教えてください。
(碓井)まず、地元の人のやさしさに接しました。多くの参加者が来てくれるということで市役所は歓迎ムードでした。協賛していただいた方もオリエンテーリングやKOLC大会を覚えてくれていました。町役場の人が当日は運営に差し入れしてくれました。
次に同期や後輩と話す機会が増えました。周りの協力に支えられ、特に同期の偉大さを感じました。
(佐野)筏場で開催できたことが嬉しいですね。自分も9回大会のときに筏場1回入っていました。そのとき中止になったのが残念で、今回リベンジというか供養みたいなことができて良かったと思います。
(野上)調査も運営も同期や後輩とたくさん行って楽しかったですね。アンケートで細かいところが配慮されてるという声が多くて良かったです。後輩が運営に力を入れてくれているのを近くで見れたのも良かったと思います。
Q.最後にコメントなどあればお願いします
(碓井)5月に延期になってしまいましたが、2月のときのエントリーと同じくらいの参加者が来たのは嬉しかったです。筏場入ってよかったという声がたくさん聴けたのも良かったです。参加者、運営者、先輩後輩協力してくれて、感謝の気持ちです。特に同期には本当に感謝です。KOLCの下の代は人数が少なかったりで悪戦苦闘することがあるかもしれないけど、これからも代々大会のブランドを引き継いでくれればと思います。
(佐野)自分が組んだコースが400人以上の人に走ってもらえたということが本当に嬉しかったです。
(野上)(中止になってしまった)9回大会があったからこそ、良い地図ができて作業もスムーズにできたと思います。同期が就活など忙しい時期でしたが、5月に延期になっても大会を無事に開催できて良かったです。
(江野)第7・9回大会から5年間筏場に携わってきましたが、筏場というテレインを維持するのが大変なことは皆様にご理解いただきたいです。地形が難解なので調査に時間がかかります。第7回大会の記事にもありましたが、一日調査しても指先くらいの範囲しか地図が書けないこともあります(笑)。大学からも決して近い場所ではないですし、輸送にバスが必須ということもあり決算も厳しいです。学生団体がこの魅力的なテレインを維持するため、KOLC大会やKOLCを今後も温かい目で見ていただき、大会などの開催される機会がありましたら引き続き多くの方に参加して頂ければと思います。
--インタビューのご協力ありがとうございました。--
個人的には、第9回大会から受け継がれている部分もあり、それをうまく活用したというのが興味深い。この2年以上の苦労を感じ、大会2回分の運営者の思いを感じる部分であった。これからも筏場という魅力的なテレインに定期的に入る機会があることを願いたい。KOLCの運営する大会も2015年から数えて7回となり、すっかり毎年恒例の大会となった。来年度以降の大会にも期待したい。
〔writter:Yoshi2〕