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2017年1月よりスタートしたオリエンテーリング関連のニュースサイトです。関東を拠点に、手の届く範囲でですが大会記事などをお届けしていきたいと思います。

#189_これぞ青春!廊下と校庭を駆けるオリエンティアたち! - 第38回KOLA新春大会

2023年1月3日、第38回KOLA新春オリエンテーリング大会が大阪府和泉市立郷荘中学校で開催された。開催場所を聞いて「えっ?」と思うだろう。文字通り中学校を舞台として中学校の校舎内、プール、校庭がオリエンテーリングのコースとして提供されたのだ。

 

廊下を走ろうか

2022年9月、SNS上で以下のような大会案内が投稿され、瞬く間に多くのオリエンテーリング愛好者たちの話題に上った。インドアオリエンテーリングといえばこれまで、新潟県で3回開催されたスタジアムスプリントがすぐに思いつくであろうが、それ以外となるとなかなか思いつかないのではないだろうか。海外のオリエンテーリングの大会へ遠征したことがある選手であれば海外のインドアオリエンテーリングの経験もあるかもしれないが、日本ではやはりまだまだ開催数の少ないジャンルであろう。しかし今回、インドアオリエンテーリングでなおかつまさかの学校、校舎の中を走るということで、「本当に学校の中を走るのか?」「どんなコースになるのだろうか」など多くのオリエンテーリング愛好家たちの期待と話題がSNS上でおおいに盛り上がっていた。

衝撃の大会案内

今大会は学校を使用するということで参加者の人数制限が315人に設定されていた。昨今参加者が300人を超えるオリエンテーリング大会といえば年間通しても決して多くはなく、特にこれまでのKOLA新春大会であれば参加者は100~150人程度と記憶している。しかし本大会では受付開始してからわずか2~3週間程度で定員数に達し募集を短期間で募集を締め切ることとなった。KOLAの関係者いわく、orienteering.comに情報掲載する前に定員に達してしまったということで、参加者の本大会に対する大きな期待がうかがい知れる。

大会の開催場所となった大阪府和泉市立郷荘中学校はKOLAのメンバーが教職員として勤務されているということもあり、学校関係者に交渉して年始で授業も部活動も行われていない日に校舎及び体育館・プール・校庭を使用することができた。ただし、あくまでも校舎をオリエンテーリングコースとして使用するため、壁や窓・物品の破損、また廊下を汚すなどの懸念も十分にあるため、レース後にシューズを拭くための雑巾の持参、走行中の他選手との接触を防ぐための鈴の着用、廊下を走る際の左側通行の徹底など事前に選手には様々な注意が要項およびプログラム上で呼びかけられていた。

 

制服、運動着でレースに挑む選手たち

本大会の会場として郷荘中学校の体育館が使用された。体育館入り口の手前が選手の待機所、奥のステージ側がウォーミングアップエリアである。ステージ上のスクリーンには事前に参加者から希望を募った動画が映し出されている。

会場の様子

本大会で非常に目を見張ったのは、学校が舞台というだけあって中学校・高校時代の制服や体操着で参加する選手が非常に多かったことだ。中高生も当然参加されているが参加者の大半は大学生が占めている。大会開催数日前からSNSでも制服や体操着を着て参加しようかな、といった投稿がちらほら見え、また年末年始で実家に帰った際に高校時代の服を持ってきたという参加者もおり、大学生を中心に多くの参加者が制服・体操着姿で盛り上がっていた。(写真撮影ご協力いただいた皆さん、本当にありがとうございます)

様々な服装の参加者

ステージ奥のスクリーンでは参加者から事前に希望を募ったビデオが流されていたが、やはり本大会にちなんで海外のインドアオリエンテーリングの動画、新潟で2018年に開催されたスタジアムスプリントの動画、さらには過去のインカレリレーの動画などが流され、会場を盛り上げる一因となっていた。

スクリーンを使った動画再生

 

メインレースはとことん学校にこだわった仕掛けが…

また本大会のスタート地区は体育館から校舎の生徒用玄関へ向かう渡り廊下に設定されており、スタートの合図と同時に生徒用玄関へ参加者が入っていき、そこから校舎の中を走り回るという設定だ。
競技開始後の校舎を外から眺めると、窓越しに廊下を駆け抜けていく選手が見える。特に制服や運動着で走っている姿はどこからどう見ても楽しそうにはしゃいでいる学生であり、先生から廊下を走るなと注意されそうである。


さて本大会のコースだが、2マップフリップ方式で前半は校舎3階建ての階層構造を駆使したコース、そして後半は校舎の外に出て体育館周り校舎周りプール、そして最後はラストコントロールからゴールまで200メートルトラックを1周するコースとなっている。

校舎内では廊下、階段、教室、音楽室など普段中学校の生徒たちが授業で使用する場所がオリエンテーリングのレースの舞台として使用されている。本大会の運営者が各階の曲がり廊下に配置され選手へ左側走行や接触注意を促す注意喚起を行い、そして選手も他選手との接触や壁への衝突に気を付けながら地図を読みながら廊下や階段を駆け巡る。教室にポストが設置されている様子に「すごい!」と感嘆の様子を漏らす選手も見られた。

M21Aコース前半

 

M21Aコース後半

前半の校舎内のコースは、1階2階3階をつなぐ同じ階段を同じ色で表記されており、スタジアムスプリントと同様に各レッグでどの階段がどこに通じているかを瞬時に判断してこなしていくコースとなっている。学校の校舎といえばそこまで複雑な構造をしている印象はないが、本大会では各階には赤線でバリケード(学校の椅子と机を白黒テープで巻いて作られていた)があり意図的な立ち入り禁止が作られ攻略には一筋縄ではいかない。
また地図右下の青色の階段がトリッキーな構造になっている。この階段は屋外の非常階段であり1階から3回にかけて縦につながっているのだが、1階から2階にかけては2階のバリケードで通行不可であり2階から3階にかけてのみ移動可能である。ここを理解しないと3→4および6→7でミスタイムを出してしまう。

テレイン風景(校舎内)1

 

テレイン風景(校舎内)2

 

テレイン風景(校舎内)3

さて10番コントロールをとると晴れて迷宮の校舎から抜け出し屋外コースへ抜け出ることができる。しかし迷宮を脱出して安心したのも束の間、2枚目地図の1つ目のコントロール(11番)は隣接ポストが存在する。縮尺1:1500なのでその距離わずか約5m(目算)程度。MA2のコースを走った選手は多くがこの隣接ポストにはまってしまったようだ(かくいう筆者も見事にはまりました)。地図変更の1つ目のポストはスプリントでは要注意であると改めて注意された気持ちだ。
とにかく本大会のコースは、学校を舞台としていることに対してとにかくこだわりが強い。屋外コースはまず会場となった体育館、前半の舞台である校舎の周辺を周回し、その後プールへと突入する。ちなみにプールエリアに入ってすぐの18番コントロールはプールにいる前に下半身だけつかる洗体槽に設置されている。

テレイン風景(プールエリア)

 
プールを出た後の21番コントロールは掲揚台であり、普段であれば郷荘中学校の校旗が掲げられているところである。そしてラスト前コントロール(22番)をとった後は200メートルのグラウンドトラックを赤白テープ誘導に従って陸上選手ばりに1周してゴールとなる。学校のトラックを1周したのははたして高校の運動会ぶりである。

テレイン風景(グラウンド1周)

 

エクストラレース。まだまだ校舎を走りたい選手へ…

さらに本大会ではメインレースともう一つエクストラレースが用意されている。郷荘中学校の校舎内が使用されたのだが、午前のメインレースとはスタート位置とバリケードの配置が変えられていた。校舎の前と後ろの中央階段のバリケードにより1階から2階、2階から3階への移動が寸断されていたり、2階と3階の廊下の同じ位置にポストが設置されており階を誤って間違ったポストをとってしまいかねなかったりと午前と同様に一筋縄ではいかないコースとなっている。おそらく午前のレースを走り終えた選手たちはもう一度校舎の中を走りたい、リベンジしたいと思っていたはず。そんな思いにこたえるエクストラレースであり、十分に学校のオリエンテーリングを堪能することができた。

 

レースだけじゃない、KOLAが提供する面白い仕掛け&イベント

コントロールにおいてある謎の袋

実は会場となった体育館のすぐ近くにコントロール(MAクラスの12番)が設置されていたのだが謎の袋が置かれていたのだ。なんだろうと思ったものの中を開けることまで憚られたが実は福岡名物「通りもん」が入っていたらしい(いや、気が付かないって)。袋が置かれていたポストはこれ以外にもいくつかあったのだが同様に「通りもん」が入っていたとのこと(大会終了後SNSでネタばらしがあった)。ゲットした選手はいたのだろうか?

 

・雑巾がけ競争

レース終了後、校舎内の雑巾がけ大会と銘打ってレース後の掃除が行われた(プログラムでは事前に、雑巾がけ大会参加者は雑巾の持参が求められていた)。大会会場に入ってすぐの場所に雑巾がけ大会参加者を募る用紙が置かれており約20名が参加した。自分たちで使ったものは自分たちで掃除しなければならない、と筆者自身も学生時代教わったので筆者もこれに参加した。校舎内は1階ごとに各3本廊下があり各廊下に約2名掃除係があてがわれた。また階段にも数名掃除係が当てられ、みんなで使った後の校舎をきれいにした。

※余談だがこの雑巾がけ、やってみるとかなり辛い。腕と腰にくるのだ。次の日変なところが筋肉痛になり大変だった。なぜか私の担当廊下だけ私一人だった…。小学校時代雑巾がけ競争を友達とやったことを思い出し、いつも最下位だった切ない記憶がよみがえった…。

雑巾がけ大会

・お年玉グッズ

KOLAの新春大会といえば毎年恒例のお年玉グッズ選びである。数百円から数千円する持ち寄りの品を一斉に参加者へ配る恒例のイベント。今回は雑巾がけ大会参加者を対象にじゃんけんで勝った順番にグッズを選んでいった。ついつい掘り出しものはないか探してしまいどの選手もどのグッズを選ぶか非常に迷っていた。

多数のお年玉グッズ


インドアオリエンテーリング日本国内ではまだまだ大会数が少なく非常に珍しい形式でのレースである。しかし、2018年から3回開催されているスタジアムスプリント、今回開催された郷荘中学校を舞台としたレース、そして1月20日には小平図書館を舞台としたナイトインドアオリエンテーリングが開催されている。インドアオリエンテーリングは普段フォレストやパークをメインに開催されるオリエンテーリングからすればいわゆる非日常のレースとなる。そんなレースが今後日本でも多く開催されてほしいと思う。特に今回のKOLA新春大会はインドアという要素だけでなく中学校を舞台としてとにかく最初から最後まで“学校”が舞台であることにこだわりぬいており遊び心も強く感じられ、多くの参加者にとって記憶に深く残る大会となった。

KOLAといえば毎年、今回のような新春オリエンテーリング大会、そしてたそがれ大会など関西圏を中心に多くのオリエンテーリング愛好家が参加する大会を開催している。近年では若手選手の入会も増えており大会の開催もオリエンテーリングの協議の面でも大きく力を伸ばしている。今後のKOLAの活躍に期待すると同時に、今後も本大会に負けず多くの参加者を魅了するような大会の開催を心より楽しみにしている。


※すみません、もう一つ余談。本大会では体育館ステージのスクリーンで様々な動画が流されていたのですが、その中の一つに2013年度のインカレリレーの動画がありました(IC2013 relay - YouTube)。近年のインカレはコロナ禍の影響で大きな声での応援やコールすることもまだまだ少ないですが、その動画では盛大な応援のなか今の現役選手の先輩にあたる選手が必死に走る様子が映し出されており、多くの現役生がその動画にくぎ付けになっていたのが印象に残っています。インカレリレーはコロナ禍でここ数年相次ぐ中止となっておりましたが昨年度ようやく開催されました。しかしそれでも一部の大学からは部活動自粛の要請がでてしまい不参加を余儀なくされた大学も少なくありません。今年こそはすべての大学が胸を張って堂々と参加しすべての大学生オリエンテーリング選手にとって思い出に残るインカレが実現されてほしいと心より願っております。大学生の皆さん、残り約2か月ですがまだまだできることはありますので頑張ってください!

 

マッパーコメント紹介

インドアオリエンテーリングの機会がなかなか珍しいというのは記事中の通りだが、地図を作成するマッパーにとっても同じく珍しい機会と言える。本大会の地図はどのようにできたのだろうか?
本大会のマッパーである、KOLAの中村憲氏に本大会の地図作成についてコメントをいただいたので紹介する。

・階層構造の表現

とりあえずは、先人の知恵を参考にしようと考えました。国内で記憶に新しいのは新潟のビックスワンスタジアムで開かれたスタジアムO。また、海外ではインドアOやスクールOもしばしば開かれているとのことで、海外の情報も知りたいと思いました。そこで、Facebookの海外のマッパーコミュニティで地図表記例を教えてくださいと投稿したところ、いくつかコメントをもらうことができました。(本件に限らず、海外マッパーの意見を募りたいときには、このコミュニティに気軽に聞いてみると結構回答がもらえるのでおすすめです)。
当初、これらの表記を参考に階層構造を表記するつもりでしたが、いったんは、別に何の工夫もなくてもいいんじゃないか?となりました。
というのも、学校の構造は単純で「現地に行けばどっちが上り/下りかはわかるから地図では階段の位置さえ分かれば十分」と考えたからです。(例えばスタジアムスプリントでは、階段の位置が階層ごとに違うので、どの階段がどの階層につながるかの表記は重要でした)。

ということで、↑のような地図で試走を行ったのですが、実際走ってみると、通行禁止を活用したコースの特徴もあって、地図上でルートを考えるときに階段のつながりが混乱することがわかりました。そこで、階段の水平位置ごとに6色の色で塗り分けるようにしました。
これで十分わかりやすくなったかなとその時は思ったのですが、Extraのコースが組みあがったときに問題が発覚。階段の上りと下りの間に通行止めを入れたことにより、階段の上りと下りを区別する必要が出ました。
ここもいろいろ試したのですが、最終的に矢印を入れることに。ちなみに踊り場がない外階段のみ、文字で上り下りを入れる、という案もありました。

階段の上りと下りが区別できないと困る立禁

 

階段表記の没案


自分たちなりにはそれなりに分かりやすくなったのかなと思うのですが、いかがだったでしょうか?

正直、最初の頃は階層構造の表現はテキトーでもいいかなと思っていたのですが、コースが力作であったために、それに応じて階層構造表現も工夫を入れていった感じになりました。(これに限らないことですが、どこまで地図表現にこだわるか、というのはどういうコースでどういう課題を出すか、というところ次第なんですよね)

 

・屋内の表現

屋内では例えば机などを描くか、というのは少し迷いました。教室の小さな机はさすがに厳しいですが、実習教室の大きな机は描こうと思えば描けそうでした。海外の地図では記号を作って描いている例もあるようでした。しかし結局、あまりコース設定に寄与しなさそう、ということで何も書きませんでした。音楽室のピアノだけ描いていますけど、あれは描きたかったからです。

 

・調査

屋内ではメジャーを使って教室の壁や扉の位置、幅を測ってそこから作図しました。構造がシンプルなので現地調査時間は短かったと思います。
ちなみに、↓のようなグリッドを記号で作って作図や調査に使ったりしました。
屋外は普通の通常の調査とあまり変わりません。クラブのメンバーにこの学校の先生がいるので(それでこの大会が実現できた)、調査し漏らしたところは写真を撮ってきてもらったりできたで楽できましたね。

調査に使用したグリッド図

・その他

終始、運営者を含めて「楽しい大会をやろう」という雰囲気で準備をしてきました。告知ポスターやPVや要項類、地図デザインにも遊び心が入っていると思います。大会運営も大会参加も楽しいクラブなので、この大会で興味を持った方はぜひ入会してください。一応、岸和田が拠点のクラブですが、いろいろな縁(実家が関西とかCC7の助っ人で走ってそのまま入会とか)で全国にクラブ員が居て、関東でもしばしば懇親会をやっているようです。最近はコンスタントに若い方が入会しています。

 

▼大会公式Webサイト(コース解説も掲載されています)
http://kola1975.mbsrv.net/gyouji/shinshun/2023/

▼成績速報(Lap Center)
https://mulka2.com/lapcenter/index.jsp?event=7412

 

  [Writer : Takumin]
[マッパーコメント収集 : yi+]