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2017年1月よりスタートしたオリエンテーリング関連のニュースサイトです。関東を拠点に、手の届く範囲でですが大会記事などをお届けしていきたいと思います。

#149_選考会のために準備された本格スプリント - 第88回上尾OLC大会

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8月16日、埼玉県熊谷市の『ラグビータウン熊谷』を舞台に「第88回上尾OLC大会」が開催され、M21Aは小牧弘季、W21Aは清野幸が制した。

※8/23 上位者のルート図だけ先行公開していましたが、記事本文を掲載しました。

 

本大会はJOA公認大会(カテゴリS)ということで12月に予定されている全日本スプリントの選手権の部出場権(E権)の取得機会であると共に、もともと、関東学連スプリントセレクション(2020年度インカレスプリントの選手選考会)としても開催される予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴う各大学の課外活動制限の影響によりスプリントセレクションとしては開催できず、公認大会のみとしての開催となった。全日本スプリント直前にE権が取れる機会は、本大会の他には9月の東京理科大大会と10月のWMG関西プレ大会があったが、9月の東京理科大大会は開催見送りとなってしまい、東日本では本大会がE権取得のラストチャンスとなってしまった。

お盆期間は全国的に大変な暑さとなり、この日も例外ではなかった。しかも、大会開催地はよく猛暑になることで有名な熊谷であり、参加者、運営者共に警戒しての大会となった。会場はラグビー場であったが、屋根付きでありながら風通しは非常によく、コロナ対策としても熱中症対策としても適した場であった。テレイン中には各所に水道が点在することに加え、元々設営予定だったのかは定かではないが、コース中盤には給水箇所が設けられていた。また、レース中は本来立ち入り禁止の建物として記載されているトイレ等にも水道利用目的などで立ち寄ることも認められており、実際筆者はこの措置には大変助けられた。フィニッシュでは、氷水で冷やされた協賛飲料が用意されていたのはこの時期には非常にありがたいサービスであった。参加者も熱中症に十分警戒して大会に臨んだためか、特に倒れる人もなく大会が終わったことは幸いであった。厳しい環境下で運動するときは、くれぐれも無理をしないことが重要である(言うまでもないが、場合によっては、運動を取りやめることも必要となる)。

実行委員長の西下遼介に伺ったところ、本大会の開催にあたり一番苦労だったのはやはり新型コロナウイルス対応とのこと。「公園側が大会開催を快諾してくださったのはありがたかったです。一方で、(元々スプリントセレクションとして開催予定だったこともあり)各大学の課外活動制限を受けて大会をどう開催していくか、というところは大変でした。そのような環境の中で、これだけの規模の大会を開催できたことはよかったと思います。また、サルミング様やラグビー場の売店の販売もいただけて、大会が盛り上がる要素となったのはありがたかったです」と話してくれた。

 

本大会のテレイン『ラグビータウン熊谷』は、過去にも関東学連のスプリントセレクションが開催されたテレインだが、ISSprOM2019対応として新規に地図が作成された。ISSprOM2019で新たに導入された表記として有名なのが、「501.2 重層構造の舗装区域」である。

 

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重層構造の舗装区域(ISSprOM2019日本語版より)

 

本大会でも、一部で重層構造のエリアが使用されており、難易度の高いレッグとなっていた。

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重層構造部分(M21A)

※2枚目の図は、上層は青実線矢印、下層は赤点線矢印で通行できる個所を表記したものである

 

コース設定者の桃井陽佑によれば、上記のM21Aの10→11(W21Aの7→8も共通)は勝負レッグの一つとのことであり、上位者ルート図(後述)における小牧弘季、結城克哉がとった、南東に脱出して階段を上るルートがベストルート想定とのこと。ちなみに、結城は前日にストリートビュー等で予習していて、このようなレッグが来るだろうと想定していたそうである。
なお、該当部の地図表記には苦労したそうであり、今回の地図では重層構造の縁は、該当部が「橋」であることがわかりやすいように、隣接する通行不能がけとは黒線をつなげずにわずかに離して表記がされている(下図参照)。かなり改善を重ねて表記した結果とのことだ。

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改善を重ねた重層構造の表記

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M21A_1位小牧、2位結城のルート

 

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W21A_1位清野、2位大栗のルート

 コース全体についても桃井に伺ってみた。

-今回、コースを作成する上での狙いを教えてください。

桃井:コースプロフィールにも書いた通り、スプリントの高速ルートチョイスとナビゲーションを楽しんでもらうコースを提供し、また、レースが終わった後の会場でのルート検討で盛り上がるような勝負レッグをいくつか入れたいと考えていました。
また、このテレインは、最初は花壇のきれいなエリア、近未来チックな立体交差ゾーン、その先に景色が開けた後に、(M21Aの15~18にある)不思議な林のエリア…と多様な景観があり、それらを楽しんで走ってもらうことも考えました。当初は、終盤の会場周辺エリアをメインに使う構想もありましたがルートチョイス要素があまり出せず、全日本スプリントや(元々は)インカレスプリントの選考レースといった位置づけのコースでもあることから、ルートチョイスを増やせる東エリアを多く使用することにしました。
コースを組むのには苦労しましたが、参加者のみなさまに楽しかったと思ってもらえれば幸いです。

-勝負レッグとして設定した箇所があれば教えてください。

桃井:(本記事でも上記にある)M21AとW21A共通の立体交差エリア(M21A:10→11、W21A:7→8)は勝負レッグの一つです。ベストルートは小牧選手や結城選手が通っている出戻りのルートを想定しています。(M21Aでは)10番コントロールの脱出までに10→11のベストルートを読み切ることが重要です。今年度の全日本スプリントのテレインはこういった立体交差が多く存在すると想定しており、本大会はその予選という意味合いもあることからこのようなレッグを取り入れてみました。
最終盤のロングレッグ(M21A:24→25、W21A:19→20)も2つ目の勝負レッグと考えています。誘導路になっている橋の下を通るのがベストルートと考えていますが、これも小牧選手や結城選手は見抜いていますね。情報量が多い中でどう処理するかというようなレッグも入れたくて組んでみました。
他にも、M21A:12→13(W21A:9→10も共通レッグ)は北に脱出して立体交差の下をくぐるのがベストルート想定でしたが、会場で話を聞く限りここでベストルートを選ぶのは難しかったようですね。

 

選考会として設定された本格スプリントコースだったが、M21Aの小牧弘季、W21Aの清野幸はどちらも後続に1分近い差をつけて優勝し、高い実力を示した。また、稲毛日菜子がM21Aに出走して12位に食い込んでおり、会場を驚かせた。

小牧、清野にも、優勝インタビューを行ったので紹介する。

(W21A優勝:清野選手インタビュー)

-優勝おめでとうございます。今日のレースの感想を教えてください。

清野:道がたくさんあるエリアとか、スピードを出すことが要求されるエリアとか、立体交差とか様々な要素があって、楽しく走ることができました。

-コース設定者の桃井さんも言及していた、テレイン内の様々な景観を楽しめながら走れたようですね。レース中ミスしたところはありましたか?

清野:小径の分岐を見落として通り過ぎてしまったところがありました。あと、7→8の立体交差を読み取るのが難しかったです。

-今回の勝因はどのようなところにあると思いますか?

清野:トレーニングの成果からか、他の選手よりも、体力や暑さ耐性があったのかもしれません。最後までしっかり走れたのはよかったと思います。

-好調な中で、インカレスプリントも走れればよいのですが…。

清野:目標としていたインカレスプリントが、当初の日程での開催断念となってしまったのは残念です。この状況下では難しいかもしれませんが、他の機会に(インカレスプリントを)走れると嬉しいです。

 

(M21A優勝:小牧選手インタビュー)

-優勝おめでとうございます。今日のレースの感想を教えてください。

小牧:暑かったが、それ以上にナビゲーションの負荷が大きく、ルートチョイスも多くて、難しいコースだなと思いながら走っていました。

-自分の走りはいかがでしたか?

小牧:フィジカル的にスピードも持続できて、トレーニングの成果が出ているのでそこは満足しています。手続きのところで、地図を読み込むより先に体が動いてしまうシーンがあったので、まだまだ練習しないといけないとも思いました。12→13はベストルートが全く見えませんでした。こういう新しい図式に対するアプローチも重要と感じました。
パークOの典型的な課題にある、見通しの悪いところでの直進とか、似たような形のヤブや植え込みに正しくアタックするといったところがうまくできたのはよかったと思います。

-今後についての目標があればお聞かせください。

小牧:WOCで来年スプリントが開催されることになったので、自分の中でスプリントに対するモチベーションが上がっています。全日本スプリントも楽しみなので、今回の優勝をきっかけにスプリント競技に対して改めてしっかり取り組んでいきたいと思います。

 

本大会は全日本スプリントのE権獲得の機会になっていることもあり、上記のインタビュー中にもあるが、会場では12月の全日本スプリントに対する期待の声も多く聞かれた。新型コロナウイルス感染拡大防止を踏まえながら、全日本大会、インカレ、地域クラブの大会、大学大会など、各種の大会開催に向けて尽力している方の努力には頭が下がる思いである。参加者としては、JOA策定の「新型コロナウイルス感染拡大防止のためのガイドライン」を遵守する等、コロナ対策は十分に実施した上で、貴重なオリエンテーリングの活動機会をしっかり盛り上げていきたいものである。

 

▼大会公式サイト
https://ageo-olc.jimdofree.com/

▼成績速報(Lap Center)
https://mulka2.com/lapcenter/index.jsp?event=6009 

 

[Writer : yi+]